第二話
それはある日突然やってきた。いつも通りの朝、いつも通りのホームルーム、たくさんのいつもを重ねて迎えた昼休み。そのまま昨日と同じようなお昼を過ごすのだとそう思っていた。しかし、変化とはいつも急にやってくるものだ。
友人たちと一緒に教室でお昼を食べていると扉が開いた。別に不自然ではないがそこに立っていたのは上履きの色が私たちとは違う人物、上級生であった。
突然の上級生の来訪に教室はなんとも言えない緊張感に包まれた。しかもとびきりの美人である。こんな芸能人のような人がこの学校にいたなんて知らなかった。
「お昼時にごめんなさい。佐藤由香さんはいらっしゃるかしら?」
見た目が可憐なだけでなくその声も鈴を転がしたような可愛らしいものだった。一瞬の沈黙の後、杏ちゃんが肩を揺さぶってきた。
「由香ちゃん呼ばれてるよ!」
「え、あぁ由香って私のこと?他の由香かと・・・。」
「このクラスに由香は一人しかいないよ!ほら、先輩待ってるよ?早くいってきたら?」
「本当に私かな?ちょっと行ってくるね。」
あんな美人が本当に私に用などあるのだろうか。ゆうかとゆかを間違えているだけではないのだろうか。クラスメイトにゆうかちゃん二人いるし多分そうだと思う。二人とも苗字が佐藤であったかどうかはわからないけど。とりあえず扉の方まで行く。クラスメイトたちのざわめき声が妙に騒々しく聞こえる。
「私が佐藤由香です。・・・あの、何か御用ですか?」
「わぁ!やっとお話できた!私、入学式の時にあなたを見かけてからずっとお話してみたかったの!」
私の自己紹介などなんのその。唐突な自分語りに呆気に取られる。正直、そうですかという感想以外が見当たらない。それにしてもこの美人一体誰なのだろうか。
「あ、ごめんなさい夢中で話してしまって。自己紹介が遅れたわね。私、二学年の女神咲夜と言います。」
おながみなんて随分と珍しい苗字だな。名前がわかったところで何故ここにいるのかはわからない。先程御用は何かと聞いたが答えてくれなかったためもう一度聞くことにした。
「あの、女神先輩は私に何か御用があるんですよね?申し訳ないのですが私、まだ昼食を食べ終わっていなくて。」
遠回しに昼休みの時間が勿体無いから早く要件を言えと取られてもおかしくない物言いだが女神先輩は快く答えてくれた。
「あ、ごめんなさいね。それじゃ単刀直入に言うのだけれど・・・私と姉妹になって欲しいの!」
「はい?」
急な先輩の申し出に思わず間抜けな声が漏れる。チラリと友人たちのいる方を向くと見たこともないような輝く瞳で私たちの方を見ていた。頼れそうにもない。
「ま、前向きに検討させていただきます・・・。」
状況を瞬時に整理できるほど優秀ではない私の頭ではこの一言を言うのが精一杯だった。