第一話
私が菫女子学院に入学して二ヶ月が経った。お嬢様学校ということもあり慣れない風習を必死で覚えたり、中学からストレートで進級した生徒が圧倒的に多いクラスでなんとか浮かないように頑張ったりしていたら気づけばこんなにも時間が経っていた。努力の甲斐もあってかクラス内で浮くこともなく、友達もできた。勉強面も今のところ問題はなく実に充実した学校生活を送っていた。
朝、いつものように登校するとクラス内でも特に私に良くしてくれる杏ちゃんが声をかけてくれた。
「おはよう、由香ちゃん。下駄箱で会うのって初めてだね!」
「おはよ〜。杏ちゃんいつも早いもんね。」
「いつもは朝練あるけど今日はなかったんだよね〜。ラッキーって感じ。」
他愛のないことを話しながら一緒に教室に向かう。すると、何かを思い出したらしい杏ちゃんが急に「あっ!」と声を出した。
「そうだ!由香ちゃん聞いてよ!私、入学から二ヶ月経ってやっと姉妹ができたんだ〜!」
心底嬉しくて仕方がない様子だ。そんな杏ちゃんとは裏腹に私はそういえばそんな制度もあったなと思い出していた。興味もなければ大して重要そうでもないなと思っていた話をこんなところで聞くことになるとは・・・。
姉妹制度というのは新入生が円滑に学校に馴染めるように一つ上の学年の先輩と姉妹の契りを結ぶこと・・・だったはず。小中公立の私には馴染みがないし重要性も感じられない。しかし、杏ちゃんの表情を見るに私の感覚は間違っているらしく思い出してみれば入学したての四月など教室ではその話題で持ちきりだったことを今思い出した。
「よかったじゃん!おめでとう!」
とりあえずの賛辞の言葉。今の私にはこれ以上の言葉は出てこないが杏ちゃんが嬉しそうにしているのを見るとなんだか私まで嬉しくなってくる。お互いにニコニコしながらも話は進んでいく。
杏ちゃんと姉妹の契りを結んだのは同じ部活の先輩であることがわかった。この姉妹の契りを一年生が先輩に持ちかけることははしたないことだとされているため先輩から言われることが多い。基本的にこの学校の生徒は部活だったり生徒会だったりに所属している人が大多数を占めるため同じ団体内の先輩と契りを結ぶ子が圧倒的に多い。まぁ、中にはこうして姉妹制度に興味もなければなんの団体にも所属していない私のような人もいるわけだが。
「由香ちゃん本当に部活とか入らないの?
」
「入る気はないかな〜勉強に集中しなきゃいけないし。」
「そっか。まぁ、その辺は自由だもんね。いいと思うよ!」
まぁ、私が部活に入らないのは別な理由があったりするんだけどね。そんなことを今ここで言っても何も生まれないため口を紡ぐ。
みんなのように足が速いわけでも絵が上手いわけでもない。そんな取り柄のない私が入れる部活などきっと、この世界のどこにも存在しなかった。
「そういえば由香ちゃんと同じように部活に入ってない先輩がいるんだって。」
私と同じような変わり者が先輩にもいたことが驚きだった。
「なんか昨日部活の先輩が話してたんだけど、女神って呼ばれてる先輩がいて部活にも入ってなければ姉妹の契りも結んでなくてもったいないってなんか言ってたな〜。勿体無いいってなんでだろうね?」
部活に入る入らないも当人の自由なのに勿体無いという言葉を使うのは何か違和感がある。
「その先輩と由香ちゃんが姉妹になったらなんかロマンがあるね!良き姉妹運が巡ってくることを祈ってるよ。」
ニコッと笑いながら杏ちゃんは言った。これ以降姉妹の話題が出てくることはなく、最近読んだ面白い本の話などして私たちは教室へと歩みを進めた。