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女神の弟たち  作者: 天竺葵
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プロローグ『期待の入学式!』

初投稿で緊張しております・・・。お手柔らかに・・・。


毎週水、土に投稿します!


「お母さん!奨学生の申請通った!」


 「なんだってー⁉︎」


 そんなギャグ漫画のようなやりとりをしたのがほんの数ヶ月前のことだなんて信じられない。私は今日、憧れだった菫女子学院高等部の入学式に参加する。


 私が身につけることなんてあるのだろうかと思っていた制服、それが目の前にある。真っ白なブラウスに灰色のジャンパースカート。それに合わせるのはスカートと同色のボレロ。胸元には金と菫色の糸で校章が刺繍されている。まぁ、正直に言ってしまうと少しダサい。でも、憧れの学校の看板とも言えるような制服を身につけられるというのがとても嬉しい。


 これからの生活を想像して思わず笑みが漏れる。やばいな、この制服何時間でも眺めていられそう。いや、眺めていたい。しかし、そんな私の思いとは裏腹に時間は進んでいく。階下から母親が「準備は終わったの?」という声が聞こえる。早く着替えなければ。


 制服に着替えて髪を整える。鏡の前で一回転してみるとそこにはいつもと同じだけど今までとは違う私が映っていた。


 「結構似合ってるじゃん!」


 「由香!いつまでダラダラしてるの!」


 私の声は母親の怒声によってかき消される。時計を見ると家を出る時間ぴったりだった。そんなに時間が経っていたのかと驚く暇もなく私は部屋を飛び出した。




 「まさかうちの娘が菫女子に行くなんてな。」


 車を運転しているお父さんが感慨深そうに言った。


 「どうせ口だけだと思ってたら本当に入っちゃうなんて。」


 手鏡で口紅を塗り直しているお母さんが同意するように答える。


 「ちょっと、お母さん。何その真っ赤な口紅!時代遅れだからやめてって昨日言ったじゃん。」


 「これがお母さんの一張羅なの。」


 「信じられないし別に服でもないじゃん。」


 これからお嬢様学校と名高い菫女子の入学式に行くというのに私の家族は呑気なものだった。お父さんのスーツはいつも着てるヨレヨレなやつだしお母さんは時代遅れな真っ赤な口紅に押し入れの奥から引っ張り出してきた年代物のスーツを着ていた。私だけ新品のまっさらな制服を身につけていてなんだか滑稽だ。これから行くのは普通の高校じゃないのに。


 そんな私の心情を知らない両親は呑気にあの鼻垂れの娘がなんとかいつの話かわからないようなことを話している。私がむくれているのに気づいたらしいお父さんが赤信号なのをいいことにこちらを向いてきた。


 「どうしたんだ?折角の入学式の日にそんなむくれた顔して。」


 いつもと変わらぬ優しい微笑みが帰って私の心を荒ませる。


 「別に。なんでもないし。」


 穏和な笑みは崩さぬままお父さんは「そうか」と一言だけ言って運転へと戻って行った。




 一時間ほど車を走らせやっと菫女子学院に到着した。


 何度か足を運んだことはあったがいつ来ても校舎は美しかった。木々の間から覗く真っ白な壁と青い屋根はドイツのノイシュバンシュタイン城のような神々しさと力強さがある。今までは学校見学や入学試験だったりでしか来ることはなかったがこれからは毎日この坂を登って真っ白な校舎に入り、授業を受けると思うと胸がいっぱいになる。本当に頑張ってよかった。


 「ここが菫女学院か。随分と大きいんだな。」


 初めて敷地内に入るお父さんが感慨深そうに言った。


 「だから言ってたでしょ?大きいって。」


 私の付き添いで何回か校舎に入ったことのあるお母さんが自慢げに言う。いたずらをした子供のように無邪気に笑っているが前歯にはべったりと赤い口紅がついていた。なんだか、昔話に出てくる山姥みたいだ。


 「もう少しで着くから降りる準備をするんだぞ。」 


 そんなことわかりきっている。校舎が見えた時点で車から降りる準備はできていた。しかし、お母さんは違うようで先ほど直したはずの口紅をもう一度塗り直していた。そんなに濃くしてどうするのだろうか。


 「ほら、着いたぞ。」


 一連の運転を終えたお父さんの言葉を合図に私たち家族は車から降りた。


 降りた瞬間、強めの風が吹いた。折角直した髪が広がらないように抑える。


 風は一瞬で通り過ぎていった。私の努力も虚しく髪はボサボサになってしまった。最悪だ。思わずため息をつくと知らぬ間にギュッと握っていた左手が目に入った。何気なしでその手を開くとそこには一枚の桜の花びらが。どうやら先程の風に乗ってきたものが偶然にも私の手のひらに入り込んだのだろう。


 「お父さん、お母さん見て!知らぬ間に桜の花びら握ってた。」


 なんだか嬉しくなって二人の元に聞こえるように声をかける。


 「あら、よかったじゃない。」


 「あの強風の中掴んだのか?すごいじゃないか。」


  私は見慣れた笑顔を浮かべる両親の元へ駆け寄った。


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