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その96 失ったものと失ったもの

 とりあえず隠れるのが一番だとは思うのだけど、イブンと同じ場所に隠れるのは彼の迷惑になるので、私は露店で影となっている場所に蹲る。

 体が小さいことはかくれんぼに置いては優位性があると言える。

 逆に日常生活ではそれくらい優位ないんだけど!


「よし、これでジッとしていれば簡単にバレるようなことはないはず……あっ、ヤバい動揺して口が緩くなってきた! そ、そうか! 『真実の魔法』ってこういう場面で隠れているって手段取れないんだ! いや、隠れることは出来るけど、慌てていると黙ることが不可能だから、実質的に隠れていることにならない……隠れてるときって大抵慌てているしね? あー! もっとお坊さんみたいな境地を獲得していれば悟って無念無想に至れてたのに!! 頭丸めた方が良かったかなぁ!?」

「そこの女! めちゃくちゃ騒がしいな!」


 頑張ってこそこそと壁に向かって話しかけていた私だったが、それは無駄な抵抗というもので、普通にローブの男に見つかってしまう。

 そりゃそうなるよね! ちくしょう!

 私は立ち上がると……これまでの経緯を思い出す。


「怪しいものじゃありません! 怪しいかもしれませんが、雰囲気だけです! 考えてみればいじめっ子と怪しまれてからこの立場になっているので、怪しさだけなら世界トップクラスかもしれませんが、無害かつ無芸かつ無言の女なので!」

「無言の欠片も無いように見えるぞ」

「ごもっともです!」


 ローブの男に怪しまれながらも、なるべく私はこの場と関係のないことを考えながら会話を続ける。

 もうこの魔法との付き合いもそれなりに長いので対処方法も分かっているのだ!

 即ち、過去のことを振り返る作戦!


 『真実の魔法』によって表に出てくる言葉は私に思考の表層に過ぎないので、その表層を、思い出すという行為で塞いでしまえば良いというわけだ。

 他にはひたすらに素数を思い浮かび続けるなどの手段もあるのだけど、これはもういかにも怪しいからね。

 今の状態も怪しんだけども!


「すいません! 黙っていられない病気みたいなものでして! そこの魔法学院に通っているのですがそこで事故にあって後遺症が続いている状態です!」

「あ、ああ、なるほど。それは失礼したな」


 意外にもこちらの言い分を聞くとローブの男は素直に謝罪して、その場を立ち去ろうとするが……最後に投げかけて来た一言が劇薬だった。


「そうだ、この辺で男の子を見なかったか? 銀色で綺麗な子だ」

「うっ、み、みべばず」

「何故急に口に手を突っ込んだんだ!?」


 核心を突いたその問いかけに、私は即座に口に手を入れて発声を濁らせる。

 そのおかげで何とか聞き取らせずに済んだけど……ま、まずい。

 『真実の魔法』は元々拷問用に改造された魔法な為に、問いかけられるともうどうしようもないのだ!

 答える以外の言動が取れない!


「もう一度聞くぞ、銀色の綺麗な少年を見なかったか」


 二度目の問いでも手を食べているようではもう怪しすぎる。

 な、何かないか、何かなにか!

 その時、左右に泳いでいた私の手がポケットの中の固い感触に触れた。


 それは女神から貰った瓶の感触に違いなくて……。

 そ、そうだ! これなら魔法を一時的に消せる!

 もうこれしかない! 飲みます!


 私は瓶の中身をごきゅごきゅと一気飲みする。

 瞬間、パリーンと、何かが割れるような音が私の中で響いた。

 謎の消失感が私の心に残る。


 ど、どう? 魔法は一時的にでも解除されたの?

 い、今のところ、何も変化はないように思えるけれど……。

 試すように囁くように、私はゆっくりと口を開く。


「あ、あの、そっちの路地裏の方へ走っていくのを見ました!」


 咄嗟に出た言葉は久しぶりの嘘だった。

 ほ、本当に解除されてる!? すごい!

 こんなにあっさりと!?


「そうか……邪魔したな」


 ローブの男は私の指差す通りに、イブンのいる方向とは反対側の路地へと歩を進め、消えていく。

 しばらくして後ろからイブンがぴょこんとまた顔を出した。


「お姉さん、庇ってくれてありがとう。でも、大丈夫?」

「だ、大丈夫だと思う。多分……」


 私は自分の体をぺたぺたと触りながら、一応は嘘偽りのない言葉を返す。

 いや、もはやそれが真実なのかは私には分からないのだけども。


 この解除する薬には副作用というべきか代償というべきか、そんな面倒な問題を抱えていて、聞くところによると『大切なものを失う』と言われている。

 とりあえず、私の体には何の問題も発生していないように思えるけれど、ではもっと概念的なものを失っているのだろうか……?


 もっといろいろ考えたいところだけど、この場に留まることそのものが危険だし、そもそも試験の時間が迫っている!

 そんな悠長な時間はない!

 

「と、とにかく学院に行こう! 試験受けないとだし、それにあそこなら安全だから!」

「……そうだね、お姉さんの努力を無駄にしないためにも、絶対、合格する」


 いつも感情の薄い目をしているイブンだけど、その時ばかりは熱のこもった視線を私に向ける。

 当然、キュキュンがキュンと兎のように跳ね上がるのだけど、しかし、言葉には出てこない。

 大迷惑だった推し増しマシンガントークが収まっている!

 驚くことに本当に『真実の魔法』は解除されているらしい。

 

「まあ、僕にはある程度聞こえてるんだけどね」

「そうだった!」


 安堵する私だったけれど、結局、イブンの能力により、推し好きは伝わってしまっているのだった。

 無念!

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