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その95 往々にして顔の良い人は追われる

「一度、イブンの住んでる古本屋さんまで行ってみますか?」

「そうするか……すれ違いになっても別段問題ないからな」


 ただ待っているだけでは事態は何も好転しないので、とりあえずそう提案してみると、お兄様はやや重苦しい表情でそう応えた。

 こういった場合、片方がこの場に留まり、片方が様子を見に行くというのがお決まりのように思えるけれど、今回は話が違うのである。


 そう、あくまでも正門前で待っていたのは念のためという意味合いが大きく、実際はいてもいなくても変わらないのだ。

 私やお兄様がいなくても、イブンは試験会場に向かえばいいだけなので大きな問題にはならない。

 むしろ問題はイブンが来ないことその一点に限られている……!

 よって人探しの人数を増やす意味でも、二人で見に行くのがこの場合は正解のはずだ。


「しかし、一体何があったんでしょうか」

「……あれでも真面目な男だからな。失態ではなく、何か問題が起きたんだろう」


 お兄様の眉をひそめて言うように、グレンは不良になりたがるものの、根は素直で真面目なイケメン。

 イブンの試験当日という状況で寝坊する人ではない……何か理由があるはず。

 

そんなことを考えていると、どんどん不安になって来る。

 だ、大丈夫かなぁ……グレンは強いしかっこいいから大丈夫だとは思うんだけど、それでもやはり私は心配で仕方なかった。

 推しの危険に弱いオタク……。

 心配で焦る心を抑えつつ、お兄様と共に私は商業街へと繰り出した。

 


 ★



 そして──迷子になった。

 学習能力……ゼロ!

 記憶力もゼロなんじゃないだろうな! ラウラ・メーリアン!


 うわー! イブンとグレンの一大事だと思って焦った結果、前回のことを完全に忘れてたー!

 そうだった! 私は街の人混みには馴染まないミニマムサイズの女……。

 人の山に隠れて、人並みに流されて、一瞬で姿を見失うことでお馴染みなのだった!


 そして驚くことに、前回と全く同じ路地裏近くに私は流れ付いていた。

 全く同じ地点に流されるなんて、本当の川の流れみたいだ。

 あるよね、ペットボトルなどのゴミが流れつきがちな場所……。


「でも、前回と違って目的地は同じ古本屋だし、このまま進めばいいよね」


 誰にでもなく独り言を呟きながら、その場から離れようとすると……背後から物音が聞こえて、私は思わず振り返る。

 そこにはやや大きめな看板にこっそりと半身を隠し、ぴょこっと顔を出しているイブンの姿が!

 可愛すぎて死ねる! 死ねるけど……な、何故そこに!?


「い、イブン!」

「おはようお姉さん、ご迷惑おかけしてるね」

「ご迷惑っていうか、えっと、ここで何してるの!?」


 遅刻しているはずのイブンが、まさか前回と同じように私が迷子になった先にいるなんて、運命を感じちゃうほどの奇跡のような合致だ。

 いや、むしろ、奇妙な合致?

 奇天烈な合致かもしれない。


「今日、家を出たら黒いローブを来た怪しげな男に囲まれて……多分、僕の創造者関連の人だと思うんだけど、それで追われて今ここに至ってる」

「グレンは!?」

「お兄さんはそいつらとバトって、何人か引き付けてる」


 イブンの淡々と語る事情に私は目を丸くして驚く。

 追われてる!? そしてバトってる!?


 な、何か問題があって遅れているのだとは思っていたのだけど、思ったより問題が大問題だった!

 まさかお兄様と呑気に「今日の天気ってポカポカしてますし、晴れな気がしますけど雲の割合の方が多いので曇りなんですかね」とか言っている裏で、そんなことがあってたなんて……。


 あれ、でもちょっと待って。

 黒いローブの男たちがやってくるってなんかそのイベント、聞いたことあるような──。


「黒いローブっていかにも悪役だからそういうイベントがあったような……」

 

 ──思い出した!

 イブンのイベントにそんなのがあったはず!

 彼の創造者は別にイブンを追ってもいないのだけど、その弟子やら信奉者がイブンを追ってきて大変な騒ぎとなり、最終的にジェーンが頑張ってイブンを取り戻すような話がそういえばあった!

 まさかあのイベントが試験当日と被るなんてー!

 

 ただ、あのイベントでイブンは別に逃げてなかったような。

 この違いは何故なのだろう……。


 その疑問の答えは少し考えると、すぐに思いついた。

そうか! 今日のイブンには試験があるから、受験する為に逃げざるを得なかったのか!

 それに本来いないはずのグレンもいたので、色々とイレギュラーが重なった結果、今の形になったと。

 な、なんか色々と歯車がズレた結果、最悪の日に最悪のイベントが起きてしまったらしい。


「よもやよもやだね……ど、どうしようか!?うーん、いや、何はともあれ試験が大事だよね。とりあえず、イブン、早く学院に行っちゃおう!」


 グレンのことも気になるけれど、彼は我が学院一の武闘派だし、それにお兄様も向かっているのできっと大丈夫だろう。

 それより、イブンが試験を受けられないと、そんな二人の頑張りまで無駄にしてしまいかねない。


 また、安全面で言っても学院には魔法使いが揃っているだけあって、かなり強固な守りを誇るはず。

 そして何よりも、神の如き魔法使いナ・ナタ・エカトスティシスがいる!

 ナナっさんのそばが恐らく世界一安全な場所だ!

 

「あっ、でも、ヤバいかも。あの人たちが来た」

「えっ!?」


 再び姿を隠すイブンを横目に雑踏の方へ目をやると、そこには黒いローブに身を包んだ怪しげな男が、陰気な雰囲気を振りまきながら、こちらに向かって歩いて来ているところだった。

 グレンの足止めから漏れた人が、ここまで辿り着いてしまったんだ!

 えー! どうしよう!?


 これはめちゃくちゃマズいことになりました。

 何故なら私の戦闘力は……皆無だから!

 文字通り無なのである!!!!

 こ、この状況、私一人で何とかなるかなぁ!?



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