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その84 どっちが主?


 本日の授業もつつがなく終わり、全身に心地よい疲労感と幸福感を覚えた私が、イブンの天使な寝顔と違い非常にだらしない顔で眠りに付くと……気付けば森の中にいた。

 霧に包まれて何処か怪しげな雰囲気を漂わせる鬱屈とした森である。

 

 それはこの間、テルティーナ村で見た夢とそっくりで……。

 というか、それそのものでは?

 あれってあの村限定の空間じゃないの!?

 というかあの空間、普通に危険なんだけど、一人だと死ぬんじゃない私!?


「ようやく話せるな我が主よ」


 驚きのままあわあわと戸惑っていると、深い霧に包まれた森の中から、何やら偉そうな声が聞こえてくる。

 どこかで聞き覚えがある……というか、何度か聞いたことがあるような声だけど、どこで聞いたのか思い出せない。

 なんかツッコんでたような気が……。


「ツッコんでたのではない。注意してたのだ」

「それはそれはご迷惑おかけして……いや、あの、どなたですか!?」


 何処からともなく聞こえる声に気圧されていると、森の中から何かが近づいてくる音がした。

 ガサガサとした草木を分けるその音で、私がすわ獣かとビビっていると……草むらから現れたのは大変立派な剣だった。

 エクシュとは比べ物にならないほどに美しく絢爛なその剣はすすっと滑るように空を飛びこちらへと近づいてくる。


 もうなんか当たり前のように出て来たけどさ……剣って飛ばないし草むらから顔も出さないんだよ!?

 感覚がマヒして来てる!

 

「や、野生の剣さんが私にどういったご用事でしょうか?」

「野生の剣など存在しないであろう」

「では都会の剣さん……?」

「野生の反対を都会だと思っているのか。いいか主よ、我は主の剣である」

「私の剣? いえ、私の剣はもっとへちょい剣です!」


 私は素直に真実を話す。

 それ以外……出来ないんだけどさ!


 ここで貴方が私の剣ですと言ったら、昔話的には痛い目に合いそうな気もするし、多分正解の回答だったと思う。

なんだか金の斧、銀の斧みたいだ。

 金銀斧の話に則るならここで本当のことを言うと、立派な剣も一緒に貰えるのが流れ。

 虫の良い話だと思いつつも、何処か期待してしまう自分がいた。

 

「そのへちょい剣が我である」


 私の思いとは裏腹に、目の前の剣は意味不明なことを言う。

 へちょい剣……? 何処にそんな剣が?

 まさか自己肯定がすっごい低い人? いや剣?


「ええ? いや、それは謙遜が過ぎます! 王様が持っていてもおかしくないくらい立派な姿じゃないですか! 或いは勇者の聖剣! 正しくエクスカリバーな感じの見た目で、本当に理想的な感じです! うちのへちょい剣はもっともっとへちょへちょですよ! 比べ物になりません! まあ、へちょいのは全面的に私が悪いんですけどね? 繰り返し言いたいのですが、エクシュに罪はないのです」


 そう、目の前の立派な剣さんと私の絵から生成されてしまったエクシュとでは似ても似つかない。

 でもうちの子はいい子だから!


「であるから、そのへちょへちょで比べ物にならない剣が我だ」

「は、はい?」

「我がえくしゅかりばーである」

「えええええええええー!?」


 め、目の前にいるこの美しい剣が、え、エクシュ!?

 この艶やかで美しい光沢を見せている剣が!?

 そうして王者の風格を漂わせるこの剣が!?

 だとしたらすっごい失礼なこといっちゃったよ私!


「ご、ごめんなさいエクシュ! へちょいとか言っちゃって! 事実としてへちょいんだけど、でも、私はエクシュが一番だと思ってるから!」

「我は気にしておらん。時にはああいった見た目も悪くないものだ」

「こ、心が広い! エクシュ、いやエクシュさん!」

「エクシュで構わん」


 もはや呼び捨てで呼ぶことも少しためらわれるほどにエクシュは王の威厳にあふれていた。

 す、すごい……自然と膝を突きそうになるくらいかっこいい。

 これがあのえくしゅかりばーだなんてそんな馬鹿な……あの姿はやっぱり仮初だったの?


「いつもの姿は『真実の剣』として主の心に合わせた姿である。今は夢を通して話しかけているが故に、元の姿に戻っているのだ」

「元はこんなにかっこよかったんだ……ごめんねエクシュ! 私のせいでへちょになってしまって!」

「いや、あれは気楽で良い。この姿は肩が凝って仕方がないからな。もういい年だし、正直やめたいくらいなのだ」

「私の落書きがなんかラフな格好みたいな扱いになってる!?」

「刀身が超適当なのが柔いズボンを履いているようでリラックスできる」

「あっ、そ、そのあたりが足なんですか!?」


 なんだかよく分からないけど、えくしゅかりばーとしての姿は彼にとって大変楽なものらしい。

 た、確かに今の姿を騎士の礼服とすると、いつもの姿は家でのスウェット、もしくは学校のジャージのようなもの。

 もうゆっるゆるなわけで気を張る必要は皆無そうではある……なるほどあの姿にそんな利点があったとは!


「ただしあまり忘れて置いていくのは歓迎できないな。我、見ての通り移動が大変なのだ」

「あっ、そ、その節は大変失礼しました……」

「気にするな。良い帯も貰ったことだしな」


 常に優しいエクシュだけど、ほ、本当にこれ私が主であってる?

 明らかにこっちが従者だよ!?


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