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その80 尊さ太閤検地


「お姉さんは馬鹿じゃないよ」

「ありがとうございますイブン! ですが、そういう意味でなくお姉さんは馬鹿なのです……!」

「馬鹿にも種類があるんだ……」

「まあ、確かに良い意味で馬鹿という言葉を用いる場合はありますが」


 ヘンリーの言う通り○○馬鹿と表現する場合、それは一概に悪口でなく、熱中している者を指している。

 私の場合はオタク過ぎて思考が馬鹿になっている人であり、親馬鹿ならぬ推し馬鹿と言ったところだろうか。

 誇りにすら思う称号!


「話が大きくそれましたが、彼のためにもサクッと合格させちゃいましょうということです。私たちも新学期が始まると忙しくなりますし、色々計画していることもありますしね」

「うんうんそうだね新学期は忙しいから……うん? 色々? 計画?」

「詳細については秘密ですが、きっと楽しくなりますよ」


 ニコニコ笑顔でそういうヘンリーの目は何処か闇を秘めている。

 な、なんか怪しい! 明らかに楽しさの裏側に愉悦のようなものが隠れている!

 私がいつものようにからかわれ猿のように回される姿が想像できる!


でも仕方ないなー! 私の推し、ドSだもんなー!

 私は決してMじゃないんだけど、こればかりは本当、仕方ないからなー!


「楽しくなりそう!」

「……僕が言うのもなんですが、何やら楽しみの方向性が違うような」

「そんなことないよ! 同じ愉しみを見ているはず!」

「たのしみの意味が違うような気がしますが」

「大丈夫! 同じ意味だよ!」

「何やら目付きが不道徳なような気も……まあいいでしょう。休憩はここまでにして授業に戻りますよ」


 ふふふ、同じ愉しみを見ていると信じているからね……。

 私の良からぬ目を避けるように、昼食の時間は賑やかに終わり、午後の授業がまた開始される。

 歴史の授業の範囲はイブンの優秀さを鑑みてどんどん広がっていき、私も知らない話もチラチラと聞こえ始めてくる程だった。


 試験に出るとも思えない知識もヘンリーは率先して話す。

 それはもちろん試験のためでもある。

 知識というのは繋がりがあるとより強固に定着するので、試験に出ない話でもそれを知ることは無駄にならない。

 けれど、どちらかと言えばそれはイブンの情熱に、意欲に、ヘンリーが答えたかったのかもしれなかった。

 実際、ヘンリーの授業に夢中なイブンは瞬きしているのか不安になるほど、ジッと前だけを見つめている。

 り、理想の学習態度!


 勉強熱心な子供というのは、何よりも可愛く見えるものだ。

 特にそれがイブンとなれば倍々! 更に倍!

 今ここに最強の生徒が生まれてしまった!

 最強の先生であるヘンリーとの相性はもちろん最高で、授業はグングンとスイスイと進んでいき、昨日と同じく、あたりが暗くなってもイブンの学びは尽きず、ヘンリーの教えは終わらない。

 そんな光景があまりにも尊かった。

 

 お、推しと推しのこの新たな組み合わせがここまで尊い光景を生み出すなんて……。

 夜の闇を背景に、窓に月を映しながら談話室に二人並んでいる姿は良さみが過ぎる!

 な、なるべく私も背景に徹したいのに、あまりにもよすぎるものだから、涙と口がー!


「いい……いいよ二人とも! すっごくいい! 感動した! こんな最高の尊み秀吉があったなんて嬉しい誤算すぎる! えっヤバい、ヤバすぎる……涙出て来た……鼻血も出るかもしれない……いや、全身の液体が飛び出すかもしれない! あ、いや、私の方は見ないで! 二人でしっかりお願いします! えっ、無理? だよね! ごめん騒がしくて! 感情が急に高ぶってしまって! うわー! 邪魔者過ぎる私! 今すぐその辺の観葉植物になる魔法が欲しい! ありそうじゃない? あるわけない? うん、そうだよね! だから、えっと、ごめんなさい!」


 あー! 感情が高ぶるとボロボロに本音が零れ落ちてしまうー!

 涙まで流して何言ってるんだよこいつは!


 お決まりの私の暴走をヘンリーは優しい笑顔で見つめているけれど、イブンは少しポカーンとしていた。

 ぜ、前回出会ったときに一度暴走したきりだったから、慣れてなかったのかも。

 急に隣のお姉さんがこんなこと言い始めたらドン引きしてしまうのは仕方ないこと!

 ついに私のお姉さんイメージも瓦解してしまったか……元々崩れ落ちて廃城になっていた気もするけれど。


「お姉さんのその感情と声が一致するやつ、好き」

「はい? す、好き!?」

「聞いてて心地よい」

「長くうるさく意味不明なので耳障りなことはあっても心地よいことはなさそうですが!?」


 もうひたすらにうるさいだけであろう私の言動を心地よい!?

 とんでもないイブンの感性に驚く私だが、逆にヘンリーはむしろ得心したと言わんばかりに何やら頷いている。


「なるほど、人の意思を感じ取れる彼と意思に反しないラウラが組み合わさるとズレのない会話が可能になっているのですね」

「つ、つまりどういうこと!?」


 まるで理解できない私にヘンリーはイブンの方をちらりと見ながら説明する。


「イブンは普段、人の意思と人の声を同時に聞いているわけですが、慣れているとはいえこれは落ち着かないものです。しかし、貴女の場合、特に貴女が興奮して冷静さを失った場合、貴女の意思と声は完全に一致する。なので違和感なく聞こえて耳心地が良いということです」

「な、なるほどー!? そんな奇跡のマッチングが!?」


 それは何とも驚きの話だった。

 私の『真実の魔法』をイブンのさとりで読み取ると、意思と声が一致するので普段の二重音声のような状態が緩和されて気持ちよく声を聴ける……そんな感じだろうか。

 言うなれば字幕と音声の完全一致、或いは二つのスピーカーが奏でるハイレゾみたいな?


 それにしてもまさか『真実の魔法』がこんなところで役立つとは!


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