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その77 背が欲しい、嗚呼背が欲しい、背が欲しい

「私は談話室の片付けを済ませてから帰宅しますので、お二人は先にどうぞ」

「えっ? 手伝うよー! いや、むしろ手伝わせてください!」

「労働力は安く、そして多いのが一番。ゴーレムと同じ」


すっかりゴーレムに脳が支配されたイブンと一緒にお手伝いを希望すると、ローザはうっすらと笑みを浮かべながら、困ったように口を開く。


「お心遣いは大変にありがたいのですが、今は一刻も早く帰宅して試験に備えて欲しいですし、私は見ての通りメイドですので掃除は本分、お仕事ですわ! お気になさらず! それに私は明日はお休みですが、お二人は明日も勉強漬けなのですから、しっかり英気を養ってくださいまし」

「うぐっ! た、確かに!」


 ぐうの根も出ないほどの正論に私は言葉を詰まらせる。

 無論、私はただ横に座っていただけなのでイブンと比べるとのめり込むように集中していたわけではないのだけど、だからと言ってここでそれを誇示しても、イブンがもっと帰りにくくなるだけだろう。

 一人だけ帰りますなんて、なかなか心苦しいものがあると思う……ボッチなのでその辺の心の機微はよくわかる!

 だったら、ここは私も一緒に帰宅することで早めの休息を促すとしよう!


「イブン、ここは至高で至上で至誠な完全無欠のメイドさんに任せよう! むしろ私たちが手伝うより早く終わる可能性すらあるから!」

「言葉を尽くしてほめ過ぎて逆に何を言っているのか分からないけれど、うん、分かった、帰ろうお姉さん」

「言葉は分からなくても気持ちは分かるんですのね」


 私の心を読み取った上でそれを汲んでくれたのか、イブンは素直に帰宅を受け入れてくれた。

 これは私とローザが気を使われた形かもしれない。


 この辺の距離感がやっぱり子供離れしてるんだよねイブンは。

 この調子で成長していくと、十年後には老子みたいになっているかもしれない。

 森の中で苔むした岩の上に座ってるのすごい似合いそうだもんね……撮影したーい!


「それじゃあお姉さん、寮まで送って行ってあげる」

「はい! ……はい? あれ? 私が送られる側?」

「頼みましたわよ」

「ローザにとっても共通認識なの!?」


 一応は年上のお姉さんとしてやっている私が、年下に送られるのもどうかと思うのだけど、ただ戦闘力を考えると私とイブンの間にはアリとゾウの違いが存在しているのも事実……。

 イブンはその辺の変質者が100人くらい束になってかかって来ても負けないだろうし、私が送られるのはごく当然の理屈なのだけど、なーんか納得いかない!

 変質者が100人くらいやってきたらもう逆に変質者感ないけども!


「まあ、学内なので変な輩は現れないとは思いますが、ラウラ様に何かあったら大変なことになりますので」

「うん、気合入れて護衛する。ゴーレムのように」

「ゴーレムを気に入りすぎている!」


 もはやゴーレムの虜なイブンに連れられて、私は談話室を出る。

 こちらに向かってにこやかに手を振るローザの姿は、なんだか微笑ましそうだった。

 もしや私もイブンもどっちらもお子様だと思っている見ている……?

 




 お姉さんお姉さん言っている私だが、悲しいことに身長というのは絶対で、私が身長150センチないのに対し、イブンは小柄なものの160センチ半ばはあるのでその身長差はそれなりのものである。

 夜の校舎庭を二人並んで歩いていると、普段は目を逸らしていたイブンと私の身長差が際立って仕方がない。

 恐らくは中学生くらいの兄妹にしか見えないだろう。

もしくは、私だけ小学生に見えているのかも……。


 ちくしょう! いくら何でもチビすぎるよラウラ・メーリアン!

 せめて……せめて150は超えていて欲しかった……!

 これじゃジェットコースター乗れるかギリギリだよ! ないけどこの世界にジェットコースター!


「欲しい……全てを見下ろせるだけの力(背丈)が!」

「背丈伸ばしたいがために暗黒面に落ちそうになる人、初めて見た」


 私の熱い身長へと熱意にイブンは目を丸くしている。

 イブンは男性しては小柄な方だけれど、あまり気にしてはいないらしい。


「私、もうこれから正攻法で背が伸びることないから、非合法で伸びるしかないんだよね」

「非合法に伸ばそうとしないで」


 十万円で一センチ買えるなら私は間違いなくバイトに勤しんで百万円を用意することだろう。

 それくらいの覚悟はある!

 背丈を金塊で買ってやる!


「でも背を伸ばすのも不可能ではなさそうだよね。今日、ゴーレムについて習って思ったんだけど、魔法は面白い。何でもありな気がする」

「面白いって思えるのは大事! イブン、いい感じだよ!」

「そのうち魔法を極めて、お姉さんの背も伸ばしてあげるよ」

「えっ!? 本当に? 金塊と交換で?」

「特別にプリン一個でいいよ」

「やっすーい!」


 夜の帳を全身で感じながら、私とイブンはなんだかくだらない話に花を咲かせる。

 でも、今日はこれぐらいで丁度いいのかもしれなかった。

 だって私の今の役割は、イブンの隣に座って授業を受けるクラスメイトなのだから。


 思えば私も仲の良いクラスメイトなんて持ったことがなかったので、新鮮なときめきを感じている。

 しかも放課後に一緒に帰宅なんて……あ、あおはるゥー!

 まさか私にこんな青春模様が舞い降りてくるなんて、感動を通り越してちょっと泣けてくるレベルだ。


 でも、どちらかと言えば私のポジションにジェーンがいてそれを背後で眺める方が嬉しいのもまた事実。

 イブンとジェーンの絡みも切望し続ける私なのだった。

 日替わり教職を続けてたらいつかジェーンも来るのかなぁ……?


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