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その57 壊れざまを見てください!

「そもそもこの剣を思い描いた流れからして、ラウラらしさに溢れていると俺は思う」

「確かに剣を全く知らないのに剣を描こうというのは私らしい無茶さですが……」


 絵を描く上で最大のコツは何かというと、それは見て描くことだと習ったことがある。

 要するに想像には限界があるということ……ましてや私は剣について無知すぎて、えくしゅかりばーは剣とも呼べない謎の物体になってしまった。


「いや、剣について考えながら寝るという条件で、絵を描こうという発想は柔軟で良い。俺にはない発想だったために、寝るのに苦労したからな」

「それはお兄様が不眠症なだけだと思いますが……」

「それに魔剣としての機能がありながら全く斬れないというのも別に悪くはない。むしろ持ち運び易いので、そちらの方がありがたいくらいだ」

「あっ、なるほどー! 剣としての使用を目的にしてませんもんね!」


 ようやく、お兄様とジェーンのいう私らしいという言葉の意味が分かって来た。

 まず、私が魔剣や聖剣を求めていたのは、その剣が持つ魔力に用があるからで、そもそも戦闘力は求めていない。

 言ってしまえば、身につけられるアクセサリーがベストなのである。


 要するに切れ味があっても無駄どころか、取り扱いが面倒になりマイナスですらあり、私には無用の長物でしかない。

 そう、私にとっては切れ味がクソで壊れてもすぐ直るこの剣が一番良かったんだ!


 ……だとしてもデザインね!

 これだけは擁護しきれない!


「それに大きさが小さいのもいいな。お手頃だ」

「お手頃というか、おもちゃみたいですけどね?」

「誰もが最初はおもちゃからスタートするものだろう。今まで剣を持ったことのないラウラからすれば、そういう意味でも丁度良い。下手な武器は怪我を生むだけだからな」

「そ、それは確かに!」


 もう討論を重ねれば重ねるほどに結論が浮き彫りになっていく。

 この剣は、えくしゅかりばーは私に相応しすぎるようだ。

 ……ちょっと不服ではあるけど、もう認めるしかないか!

 えくしゅかりばーは私のための剣です!

 

「あの、ジョセフ様、ラウラ様、こちらにきてください」


 おもちゃを自分のものだと認めた私だったが、一方、私たちのそばを離れ、大猪の元で屈み込んでいたジェーンが何事かに気付いたのか声を上げる。

 私とお兄様が素直にジェーンの元まで行ってみると、ジェーンは猪の牙を撫でているところだった。


「どうかしたのジェーン?」

「色々試したんですが、この牙はやはり魔法を跳ね返す効果があるみたいなんです。大変貴重なもので、その、持ち出せないかと」

「お、大猪の牙を剥ぎ取ろうって話!?」


 まさかのモンハン的発想、山育ちのジェーンからしてみれば当然の考えなのかもしれないけれど、現代日本と貴族のお家に生まれた私としては、考えもしないことだった。

 ただ、魔法を跳ね返すという効果は、私から見ても明らかに特別なもので、欲しがるジェーンの気持ちも分かる。

 というか、売れば一生遊んで暮らせそうな気さえする!


「そもそも夢の世界から持ち出せるかの疑問もあるが、それは試してみないことには分からないか」

「はい、とりあえず牙を取りたいんですが……魔法が効かないので方法がないんです」

「あー、素手じゃ無理だもんね!」


 この場に道具でもあれば話は別なのだけど、手ぶらの身では剥ぎ取りなんて、魔法に頼るほかない。

 しかし、その魔法が効かないので、牙を切り取る方法が現状ないわけだ。

 魔法が効かないからこそ欲しいのだけど、魔法が効かないからこそ手に入らない……このジレンマ!


「剣でもあればいいのにね」

「はい、剣があれば……」

「剣があればな……」


 そう、剣さえあればなんとかなりそうなものなのに、睡眠という方法でここに来たために何も武器がない。

 眠りながらツルハシでも抱きしめておくべきだったかなぁ……。

 すっごい寝付き悪くなりそうだし、顔に変な痕が付きそうで嫌だけど。


 って、いや、そうじゃなくて!!!


「剣あるじゃないですかここにー!!!!」


 私はえくしゅかりばーを颯爽と掲げるけれど、二人の視線はただただ微笑ましいものを見るように、笑みをたたえるだけだった。


 あっ、剣と思われていないなこれ!?

 いや、まあ、私も思ってないけれど、一応ね! 一応剣なんです! 伝説の!


「一応試します!!!!! というか、二人にはまだ見せてないから、こいつの砕けっぷりと回復する姿をお見せいたしましょう!」

「自信満々に剣を壊す人は初めて見るな」

「頑張ってくださいラウラ様!」

「パリーンっていきますからねパリーンって!」


 私はえくしゅかりばーのとんでもなさを見せつけるために、剣を大猪の巨大な牙に当てると、ぐっと力を込める。

 

「さあ、砕けろ! えくしゅかりばー!」

「すごい掛け声です」

「未だかつてないな」


 剣の名を叫びながらその自壊を望む奇妙な光景を前に、二人は驚いているけれど……真に驚くのは砕けてから!

 お楽しみはこれからです!!!


 そう思っていたのだけど、この剣はとことん私の思い通りにいかないようで、なんと剣は砕けもせずに、するりと何にも触れていないかのように空を斬る。

 体重をかけていた私は、そのままの勢いで前方にすってんころりん転んでしまい、水辺の柔らかな土に倒れ込んだ。


「えっ、何が起きました!?!?!?? 剣が消えたりしましたか!? あるいは砕ける速度が速すぎて、その感触すらなく離散した感じですか!?」


 事態を飲み込めない私は、ぶっ飛んだ可能性すら考えるけれど、どうやらそれは違うようで、お兄様は優しく声をかけてくれる。


「ラウラ、大猪を見てみろ」


 上体を起こして振り返って見ると、ジェーンが目を丸くして大猪を凝視していた。

 お兄様もまた珍しく少し驚いたように、その手は顎を撫でている。

 

 一体何があったのだろうか。

 巨体の影に隠れてよく見えない大猪さんの顔を見るために、よちよち歩いて向かってみればそこには――斬り落とされた巨大な牙が地面に転がっていた。


「えっ? 急に牙が生え変わりの時期を迎えましたか!?」

「ち、違います! ラウラ様が斬ったのですよ!」

「ラウラ様が北野デス代?」


 北野デス代、まるで知らない人だけど、間違いなく地獄系のシンガーか何かだろう。

 私はいつのまにかデスメタルみたいになっていた……?


 現実を受け止めきれない私は、ふらふらと試すようにもう一本の牙にえくしゅかりばーの刃を立てる。

 すると、するりと剣が牙を通り抜け……ズドンと牙が地面に落下した。

 その切断面はツルツルとして美しい。


 あっ、え、えくしゅかりばーがやったの!? これを!?

 ……いや、そんなわけはない! 

 だってえくしゅかりばーは……えくしゅかりばーは枝で大破してたのに!

 枝で!!!


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