その44 恋の謎よ来い
「見ていないのに見てしまうものと言えば、ラウラ様ですね」
「どういうこと!?」
張り切っていた私は、ジェーンの言葉に虚をつかれ、ずるっと足を滑らせる。
私って見ていないのに見てしまうものなの!?
どういう意味!?
「あの、き、気付いたら視線がラウラ様の方へ向くので……」
「あっ、それは分かる! 分かるけど、その、は、恥ずかしいな……」
悪い意味で言っていなかったのは良かったけれど、顔の火照りは大変なことになってしまう。
意識しなくても視線を友達や好きな人に向けるのは、思春期にこそありがちな行動で、私の視線も監視カメラのように、常に推しの方へ動き続ける。
これはもう意思で拒めるものではなく、本当に自動的な動きであり、完全な無意識だ。
つまり見ていないのに見てしまうという条件には一致している。
じゃあ、この問答の答えは、好意?
「確かに好きな相手などの答えなら『思いながら』というか条件にも合いそうだな」
「ですが、『知っていれば会える』にはあまり合わないような……」
お兄様とジェーンは首を傾げて考えている。
2人だけに任せていては申し訳ないので、私も何か考えないと!
「知っていれば会えるは、その、じ、自覚すればその気持ちに出会えるみたいな意味かも……は、恥ずかしいですこの謎解き!」
考えた結果出てくるのがこんな推理なのだから、どうやら私には探偵の才能がないらしい。
なにこの世界一恥ずかしい推理は?
ポエムと紙一重だよ!?
恋愛ゲームの世界観だからあり得なくはないと思うのだけど、なんだかすっごいドギマギしてしまう。
前提がジェーンが私に好意持ってるってところからスタートだから余計に!
と、友達としてなのは分かっているけれど、どうしようもなく顔が赤くなってしまう!
オタクは人の好意に弱い……陰に生きあんまり愛される経験ないから!
「ラウラらしい詩的な推理は俺は好みだが、それでは場所の特定にはならないな」
「そうですねぇ……ラウラ様のお考えは素敵滅法なのですが」
「脳みそお花畑すぎてお役に立てず、すいません!!!!」
ポエム力は評価されたものの、推理力はお話にならないレベルな私だった。
はりきって挑んだものの、私、こういうの別に得意じゃないからね……!
推理小説とか好きなだけ!
愛読書は米澤穂信!
その後も3人でうーんうーんと頭を悩ませたけれど、しっくりとくる答えは出ずに、あたりは少し暗くなりつつあった。
夜に山はさすがに危ない、もう山を降りる頃かと思っていると、声が聞こえてきた。
「どうやらお疲れの様子じゃな」
「フギンさんそうなんですよ……あっ、これ、本人ですね!?」
「何と間違えたんじゃ?」
空から声が降ってきたので、またまたフギンさんが話し出したのかと思ってしまったけれど、それは本物のナナっさんで、腕組みしたまま空からこちらに降りてきていた。
実際のフギンさんは、私の頭の上に乗って大人しくしている。
気付けばフギンさんはそこが定位置になっていた……いや、どうして!?
ちょっとモジャッとしてるのが鳥の巣みたいだから?
「こっちはなんとか見つけ出したんじゃがな……」
「あの文字通り本の山からすごいですねナナっさん!」
「もう、ほんと、大変じゃった……」
いつものビシッと決まった燕尾服もどこか汚れて、くたびれた姿になっている。
顔も疲労困憊な様子で、どうやら本の山との戦いは苛烈を極めたらしいことが感じられた。
お疲れ様ですナナっさん……。
「あの、ナタ学院長! ラウラ様の頭のカラスについて見覚えありませんか?」
「おお! フギンじゃな! まだおったのか……ああ、勘違いせんでくれ、別に儂のペットというわけじゃない。この山に住んどる野生の不思議な鴉じゃ」
「でも、話している言葉はナナっさん由来のもの多かったですよ?」
「それはこの山に一番長く住んでるのが儂じゃからじゃろうな」
「ああ、たしかに長生きですもん」
「それに人も滅多に来んからな」
一応はこの山は神域にも似た場所であり、あまり人は立ち入らない。
だから、この山にいた人間は基本ナナっさんだけであり、フギンさんの言葉の学習先もナナっさんが基本になったということか。
そう考えると、他にこの山に登る人はジェーンのお母さんのジーナさんくらいなので、ナナっさん以外のものと思われるフギンさんの発言はジーナさんの可能性が高い?
女性っぽい感じもあったし、結構その可能性は濃厚かも。
「まあ、立ち話で続けるのもなんじゃ。あと、儂、早く座りたい……」
「あっ! そうですよね!」
ボロボロのナナっさんの姿は今にも横になって寝てしまいそうな程で、立ち話はここまでにして下山する必要がありそうだった。
あと、実の所……私もかなり疲れている!
コタツパワーのおかげでかなり回復したものの、それだけでは治りきらない疲労が足に蓄積しているのだ。
1度座ったらもう2度とは立ち上がれないかも。
「ラウラ、帰りも背負った方がいいだろう?」
そんな私の様子にいち早く気付いたのはやはりお兄様だった。
お兄様から見れば私の体調なんて一目なんだろうなぁ。
しかし、ううっ、再度頼ることになるのは羞恥の極みだけど、山は下りこそ危険とも聞く。
疲労が足に来ている私が、間違えて足を滑らせようものなら、貧弱ボディに待ち受けるのものは死しかない!
どう考えても、やっぱり、悲しいかな、素直に背負われる以外の選択肢はないようだった。
「いずれは私がお兄様を背負えるように頑張ります!」
「いや、その絵面はキツすぎる」
素敵滅法
形容動詞・すてきを強めた言い方。非常に。
響きが好きです!




