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その42 もはや微笑ましき暴走

 あまり乗り気じゃない態度のジェーンだけど、それには理由があるらしい。

 理由というか、裏が。

 おいしい話には常に代償が伴う。

 それは物語の世界でも、現実でも、大きく違えるものではないらしい。

 

「噂には続きがあって、魔法と一緒に大切なものも消えてしまうらしいんです……あまりにも恐ろしいので、話したくなかったんですが」

「超ホラーな泉だ! そりゃあ話しにくいよ!」


 ジェーンの不安な態度も分かろうというものだ。

 ただでさえ確証がなく、ぬか喜びになってしまう可能性が高い上に、リスクまで付いているのだから。


 それにしても大切なものだなんて、なんとも抽象的で何でもありな感じがして、本当に怖い。

 声とか子供とか愛とかが奪われそうな、そんな不気味さがある。

 それとも単純に物質的なもの?


 生前の私には物質的な大切な物は山ほどあって、それは本だったりアニメだったりグッズだったり同人誌だったり、或いはパソコンのデータだったりしたのだけど、今はそれらは私の手元にはない。

 前世に置いてきてしまった。

 別名を遺品という。

 きっと全部、家族が捨ててしまったことだろう。


 ……というかパソコンに関しては中身は見ずに破壊してください!

 後生ですから!


 そんなわけで、今、私に物質的に大切なものはないわけで……。

 いや、違う!

 今は推しが物質的な存在なんだ! だって目の前にいるのだから!


 ならば私の大切なものは、抽象的でも具体的でも、それは迷う事なく推しになる。

 それが消えたらもう世界の終わりと言っても過言ではない。


「その泉には何があっても近づかないようにしよう!」

「は、はい! 私もそれがいいと思います」


 推しが消えること即ち世界の終焉!

 私の脳はその泉は危険すぎるとアラームを鳴り響かせる。

 あの災害時によく聞く、人を否応なく不安にさせる音だ。

 あれ本当に怖い……。


「ふむ……事実だとすれば逃す手はないが、本当に魔法を消せるかも、大切なものを奪うかも、結局噂に過ぎない状況では判断が難しい。調査はしてみても良いんじゃないか? どんなものか充分に検証してからでないと、そもそも何の決断もできないと俺は思う。勿論、ラウラが嫌なら、探すこともしないが」


 お兄様は最大限に私に配慮しつつも、噂そのものは追う方針のようだった。

 最初からそういった事が目的でこの村に来ているのだから、当然なのだけれど。


 冷静になって考えてみれば、お兄様の言う通り、元の大切な物が消えると言う話からすでに眉唾であり、何が起きるかは実際に泉を見つけないことには分からないのだから、今怖がるのは無意味ではあり無駄とも言える。


 それに噂は噂のままに捉えるべきではないと、私は悪役令嬢として思い知っているはずだ。

 なら、事実確認はするべき!

 しっかりと見極めることこそが、真実への近道のはず。


「お兄様……お気遣いありがとうございます! 確かに捨てるには惜しい話です! 忌避するのも、有り難がるのも、全ては実際に確認してからにしましょう!」


 そう、この旅は魔法を解く手がかりを探す旅なのだから、恐れていては始まらない。

 いくらビビりな私でも、全てにビビっていては、魔法を解くなんて夢のまた夢だ。

 体力だけでなく、度胸も身につけよう! ラウラ・メーリアン!


「本当に嫌ならすぐ言うんだぞ」

「はい! というか、嘘はつけないので!」

「……すまなかった」

「もうこれ何度目か分かりませんよ! お兄様! 気にしないでください!」


 せっかく真面目でいい感じの雰囲気だったのに、お決まりのブラックジョーク(無意識)が久々に決まってしまった!

 この口が申し訳ない!


 でも、実はそんなに真面目な絵面でもなかった。

 お忘れかもしれないが、これ実はコタツの中でヌクヌクしながら話している内容なんです!

 シュール!

 

「あの、そろそろコタツから出たほうが」

「ああ、出ないとな」

「ええ、出ないとですね」

「「…………………」」

「なんでお二人とも動かないんですか!」


 口ではそう言うものの、まるでコタツから出る気配のない兄妹の姿にジェーンが驚く。

 私はともかくお兄様にしては珍しい光景だけれど、どうやら兄妹揃って寒さには激弱らしかった。

 なんだかんだ言って貴族育ちはやっぱり厳しい環境では生きていけない定めにあるのか。

 

「これはね! 動かないのではなく、動けないの!」

「あまりにもぬくすぎる」

「コタツに完全に飲まれちゃってますね……いや、まあ、私はいいんですが。むしろお二人とも可愛い感じですし!」


 兄妹推しというだけあって、ジェーンは私たちに甘々もいいところで、もはやパンケーキキャラメルソースクリームマシマシくらいド甘い!

 けれど、今必要なのは優しさではなく厳しさ!

 このコタツから外へはばたくための翼という名のきっかけが欲しい!


「カミサマ、イママデアリガトネ」

「フギンさん?」

「あら、明らかにナタ学院長とは別の人の言葉ですね」


 このままコタツの中でグダグダと過ごす羽目になるかと思われたその時、きっかけがやってくる。

 奇しくもそれは翼の生えたカラスさんだった。


 のじゃ言葉という分かりやすい特徴のあるナナっさんは、真似であっても分かりやすいので、それは別の人物の発言の可能性は高そうだった。

 誰かまでは、まるで分からないけれども。

 どうやら学習したと思われる言葉はナナっさんに限ったものではないらしい。


「考えてみれば最初のおはようも学院長とは別の人物のものじゃないか?」

「そういえばのじゃが付いてませんでしたね」

「でも、ナナっさんって挨拶って『おはようなのじゃ!』でしたっけ? 普通に『おはよう皆の衆!』とかそんな感じの時もあるような」


 ナナっさんの用いるのじゃ言葉は実際のところ、自分で意識して行っているキャラ付けであり、外れることもちょこちょこある。

 例えばわざわざ『いただきますなのじゃ!』とかは言わない傾向にあるような気が……。


「だが、さすがに『カミサマ、イママデアリガトネ』とは学院長は言わないだろう」

「いや、ナナっさんの言動はもう意味不明な領域に突入することも多いので、あり得なくはないですよ!」

「女装とかしそうですものねナタ学院長」

「ナナっさんの女装!?」


 ジェーンとしては冗談まじりな意見だったのだろうけれど、私はその素敵ワードに思わず立ち上がり、頭を抱えた。

 良すぎて一瞬頭痛すら感じるほどだったのだ。

 よ、良き!

 良き過ぎて良き良き亭のよかラーメン!

 実は女装も大好きなラウラ・メーリアンです!


「女装いいよね! 私、女装は全男子にやってほしいんだ! なんかガタイが良いキャラだと似合わないみたいに言われがちだけど、それがむしろ見たいんだよね! 背が高くてがっちりしていて、それでいて女の子な服っていうギャップが好きすぎて……もちろん華奢な男の子の女装もすこすこスコティッシュフォールドなんだけど! ナナっさんなんて絶対似合いすぎるし、しかもノリノリでやってくれそう! 嫌々やる女装男子も好きだけど、やっぱりノリノリでそういうことする男子が私は好きっていうか、気合入れてメイクとかして欲しいし……」

「あっ、ラウラ様コタツから出られましたね」

「えっ!? あっ、本当だ!」


 熱弁のあまり立ち上がり拳を固めた私は、気付けばコタツからその身を脱出させて、冷たい神殿の風を全身で浴びていた。

 やっぱり寒いけれど、これは怪我の功名。

 恥ずかしい話をする代わりに、コタツの魔力から解放された。

 本当に恥ずかしすぎる話と引き換えに!!!!!!!

 嗚呼……コタツってここまでしないと出られないものでしたっけ?

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