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その287 キャラクター性は足し算ではなく引き算が望ましい

 その後、トラコさんから話を聞いてみると……どうやら今までのことが完全に消えたわけではなく、置き換えのようなものが発生しているらしい。

 つまりジェーンが押し競饅頭覇者になってしまったのも、あの圧倒的な圧勝劇からの置換ということになる。

 ……そんな馬鹿な!?


「それで押し競饅頭女王にされてしまったのはジェーンも不運だったね……」

「ええ、本当に」

「それで怒られてるトラコさんも不運だけど……」

「ああ、いえ、それは妥当な怒りなのです」

「えっ?」


 話を聞く限りではこんなのは予想の仕様の無い事態で、だからこそ誰の責任でもないものだと思ったのだけど、トラコさんはそんな私の考えに首を振って答えた。


「そもそもとしてドラゴンになって迷惑をかけたことは、全て私に責任があるのですが……」

「それは色々な状況が絡み合って生まれた事故ですから!」

「ただ、それを抜きにしてもこれに関しては私の我が儘を通した結果と言いますか……あの、私の姿を見て何か思い当たることがありませんか?」

「トラコさんの姿を?」


 手を広げたままクルリと回って見てくださいアピールをするトラコさん。

 ふわりと広がるスカートはまるで日輪のように眩しかった。


 この絶好の鑑賞のチャンスを逃すようではオタクの名折れ!

 私は居住まいを正してじっくりとトラコさんを眺める。

 いつも通りのゴシックなメイド服は上品かつ優美で、見ているだけで心の中が洗われ、綺麗な自分が現れるような気持ちにさせてくれるけれど、しかしそれは当然のことで思い当たる節とは言えない。

 

 しかし、こうして改めて見ていると本当に男性だと言うことを忘れてしまう可憐さだ。

 それに加えてドラゴンだと言うのだから本当に属性過多──。

 ──あれ?


 突如として違和感に覚えた私は再度トラコさんの頭を眺める。

 ホワイトブリムがあるだけで特にそこには違和感がない。

 次にお尻を眺める。

 見るところがド変態過ぎるのはさておき、分厚いスカート越しにも分かる大きめなお尻にも違和感はない。やわ感はあるけれど。


 そう、違和感はない。普通の人間と変わらない姿がそこにはある。

 けれど、違和感がないことが大きな違和感になっていた。

 トラコさんは……普通じゃないんだから!

 

「……ツノとシッポがありません! 何処かに落としてきちゃいましたか!?」


 こうして気付いてしまえば一目瞭然で、どうして気付けなかったのか不覚に思う程なのだけど、今のトラコさんには立派に生えそろっていたツノとシッポが消失していた。

 い、一体いつから無かったのだろう。

 思い返してみるけれど、確かドラゴンから元の姿に戻った時にはまだ2つとも生えていた記憶がある。

 ということは、私が起きるまでの間に無くなったということ?


「そこまで驚いて貰えると面白いですが、落としてはいませんよ」

「じゃ、じゃあ……怒ったジェーンに引きちぎられちゃったとか!?」

「ジェーンもそこまで鬼じゃありませんよ。多分」


 最後に多分がついてしまう所に多分な不安を感じるけれど、そうだよね、ジェーンがそんなことするわけないよね。

 

「これはですね、自分で取ったんです」


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