その277 語るカタルシス
「トラコが男……トラコが男……トラ男……」
「トラ男ではないです!」
とにもかくにも妹様に落ち着いて貰わないと話が出来ない。
この場合、妹様は女装している理由が分からなくてパニックになっているわけなので……そこの理屈を説明するのが一番だろうか。
……ならいっそ、このまま女装を好きになってもらうくらいの勢いで話した方がいいのでは?
うん! それがいい気がしてきた! いや、決してね? 決して! 決して同士が欲しいわけではなく! 正義の為にね!!!
「妹様、落ち着いて聞いてください」
「はぁ……はぁ……な、なに?」
もはや息切れすら起こしている妹様の手を取って、目を見て、語り掛ける。
身体的接触は人をリラックスさせる効果があると聞く。
私などは人から触られようものならリラックスどころか頭がクラクラッシュしてしまうところだけど、妹様相手には有効だったらしく、少しだけ冷静になってくれた。
よし……じゃあまずはジャブから仕掛けてみよう。
「私に色んな服を着せ変えてくれたことありましたよね。どうでした? 似合ってましたか?」
「う、うん、超似合ってた」
「お似合いな服を着るのは良いことですよね。その服が好みなら尚更です」
「それは、まあ、そうだと思うけど……」
「それでですね、妹様、トラコさんに一番似合う服装ってぱっと何が思い浮かびますか?」
「それは勿論メイド服──はっ!?」
餌にかかった! このまま釣り上げる……!
「そうです! トラコさんに一番似合うファッション……それはメイド服なんです! つまり一番似合う格好になっているだけであって、とても自然なことなんです!」
「そ、そうなのかな?」
「そうなんです!」
「そうなんだ……」
若干納得していない顔ながらも、頷いて見せる妹様。
まずは押し切ることに成功した。萌えを押し切り、押切もえだ。
次はここから理論を発展させる!
「勿論、生まれた時からトラコさんはメイド服が似合っていたわけではありません。トラコさんは努力と愛でメイド服が似合う自分になったんです。これはとてもすごい事ですよ!」
「そ、そうなの? トラコ頑張ってるの?」
「めちゃくちゃ頑張ってます! いいですか? トラコさんはたった一人でこの世界に来たんです……それは不安と孤独でいっぱいな旅だったでしょう」
「トラコ可哀そう……」
「だからこそ、トラコさんはメイド服を着ているんです!」
「ど、どういうこと!?」
お口が暴走し始めたところで、一回私は深呼吸を挟む。
この状況で倒れたりしたらことだからね……。
ただし深呼吸を挟んだということは、長台詞を口にする前触れなわけで。
私は一息に思いを吐き出す。
「ファッションには他人に見せる為のものと、自分が満足する為のものの二つの種類があります。他人に不快に思われない格好と言うのは勿論大事です。けれど、それと同じくらい自分を好きになれる格好と言うのも大切なんです。何よりも、誰よりも、自分のことは自分が愛してあげないといけないんです! これは簡単なように見えてとても難しいことなんですよ? 私なんて全く出来ていません……さておき、この世界にたった一人でやって来たドラゴンであるトラコさんにとって、そう言った自分を好きになれる物というのは大事だったと思います。自分を大切に思えなければ、自分を守ってあげられませんからね。そう、言うなればメイド服は鎧……いや、鱗なんです! 仕事への使命感、可愛さを求めるポリシー、理想の自分に近付くための道しるべ、そして愛……色んな思いが込められているからこそ立派に生きていける。それがメイド服なんです! その上で、見る者を魅了するレベルの着こなし! トラコさんのメイド服は自分だけじゃなく、他人をも幸せにしている! 素晴らしいじゃないですか! そんな大人になれたら素敵だと、誰もが憧れる理想の生き方です。もはや世界に対してご奉仕している! まさに、まさにメイドの鑑です……!」
「……トラコってすごいんだ!」
「そう、すごいんです……!」




