その274 グラップラー自円
一喝するようなジェーンの声に、ドラゴンはピタリと動きを止める。
それはまるで恐れているような姿だった。
或いは、その姿がジェーンのイメージするトラコさんの姿なのかもしれない。
いずれにせよジェーンはドラゴンをビビらせる女……!
降りてきたジェーンは地面に着地することなく、空中で一旦停止して勢いを殺す。
そして同じく降りてきた妹様は、普通にスタリと着地を決めていた。
結構な高さがあったように思うけれど、そういえば妹様はダメージを負わないのだった。
そのままドラゴンと睨み合うジェーンをよそに、トコトコと妹様はこちらへ歩いてきた。
「い、妹様?」
「貴女のことを守るようにジェーンに言われてるの」
「あっ、私ですか!?」
この場で最もお荷物な私を守りに来てくれたお優しい妹様だった。
いや、或いはそれは誤魔化しで、実際は妹様を素直に避難させるためにジェーンが私を口実にした可能性もあるのだけど、しかし私レベルのお荷物ならぬ大荷物になると、普通に私を放置できなかった可能性も高い。
本気で私を心配したのか、それとも妹様を心配したのか、その両方なのか……ジェーンがどれを重視したのかは、ちょっと問いただしたいところである。
けれど、今はとても聞ける状況じゃないだろう。
なにせジェーンはドラゴンの目の前で仁王立ちしているのだから。
「おい、ジェーンはあれ大丈夫なのか?」
「心配なのは分かりますけれども……ジェーンを信じましょう! きっと大丈夫です! だってジェーンですから!」
「なるほどな……ジェーンだもんな!」
「お姉さんとお兄さんのジェーンへの信頼感が謎すぎる」
ドラゴンと少女という一瞬不安になってしまう光景だけれど、私とグレンの間ではジェーンならば大丈夫という共通認識が成立していた。
だってジェーンだよ?
「まだまだジェーンとの接点が少ないイブンには分からねぇか……このレベルの話は」
「なんか負けた気分になるけど、言ってること意味不明だよ?」
「とはいえ、心配なのは間違いないけどね……」
高度なジェーン論について来られていないイブンはさておき、ジェーンに絶対の安心感があるといっても相手はドラゴン……どうなるかは完全に未知数だ。
ハラハラとドキドキのままにみんなで柱の影から様子を窺う。
するとそこにはジェーンが無防備にドラゴンへと近づいていく姿が。
そしてそのままドラゴンの足元まで迫るとジェーンは飛び上がり──ドラゴンの顔面をぶん殴った!
「殴ったー!?」
「腰の入ったいいパンチだと思う」
「えぇ……?」
ドン引きの妹様をよそに、ジェーンは更に拳を連打していく!
その小さな拳とは明らかに釣り合わない巨大な竜の顔、しかしそれがまるで風船で出来たサンドバックのように、右に左に吹っ飛んでいくではないですか!
し、質量保存の法則が完全に無視されているゥー!




