その273 割と可愛い方のタワラ
「ここまでの情報をまとめると、あくまでこの強制力は『トラコがドラゴンに変身する』『ドラゴンは悪い奴で暴れる』という二つのイメージだけで構成されている可能性が高い」
「なるほど……意外と単純ってことだね」
「ただし、変身中はあの赤い渦が現れるのを見ても分かる様に、変身させること単体への強制力は単純故に大変強力──それらを踏まえた上で言うけど、メイドのお兄さんの竜化は止められないと思う」
「えええええ!? ここまでの会話の結論そこなの!?」
色々と話した結果、要するにトラコさんがドラゴンになりそうだけど、それを止める手立てはないという話だった。
だとするととても怖いことになりそうなのですが……。
「ちなみにもう変身は始まっちゃってる」
「始まっちゃってるの!?」
「うしろうしろ」
そう言われて振り返ってみれば、そこには何やら羽と鱗を生やしたトラコさんが!
「うわっ、竜人みたいでかっこよっ……じゃなくて! えっ、ヤバババーンじゃないかな!? ど、どうしよう」
「さっき言ったようにどうしようもないから、隠れることをお勧めしたい」
「そ、それで大丈夫かな?」
「……さっきより手負いで気が立っている分、暴れ散らすかもしれないから、もしかすると大丈夫じゃないかも」
「実は結構ヤバかったりする……?」
「なるべくそう思わせないために、話を長くしたところはある」
「気を使ってくれてありがとうね!!!!!」
いきなり真相から話すと私が混乱しかねないので、わざわざ一から説明してくれていたらしい。
ありがたいけれど、ありがたいけれども……!
「実際、隠れても隠れなくても同じかもしれないから、いっそこのまま見届けてみる?」
「私、そこまでの思い切りの良さはないかも!」
「じゃあ隠れよう。お兄さんもそれでいい?」
「すごすご隠れるのは性に合わねぇが、仕方ないな」
いつの間にか近くまで来ていたグレンはエクシュを片手に持ったままに、私を更にもう片方の手で担ぎ上げる。
最近の私、担がれがちである。
これではラウラじゃなくてタワラだ!
……いや、あそこまで寸胴ボディじゃないつもりだけどね?
結局、最初の時と同じように私たちは柱の影に隠れることになった。
ただ一つ違いを上げるとすれば……それは私がグレンとイブンに挟まれているところにある。
なに? この罪深すぎる光景は。
ヤバい、推しの間に挟まってしまっている。
しかもグレイブ(イブグレも可)という割と公式なカプ(妄言)の間に挟まってしまっている!
通常ならその間に悪役令嬢が挟まっている構図なんて炎上不可避なのだけど、今は緊急事態につき許していただきたい……!
「さぁて、かなりドラゴンになって来たが……どうやらこっちを見ている様子だぞ」
「前回と挙動が違うのは、一度やられたことで修正されたのか、はたまた前回とは似て非なるものなのか」
「妄想って揺れ動くものだもんね」
物陰から観察を続けると、トラコさんの体はどんどん巨体へと変貌を続け、気付けば前よりも更に大きな竜へと成長を遂げていた。
もしかすると、前の妹様の妄想にはまだ遠慮があったのかもしれない。
とにもかくにも隠れる作戦が通じないとなると万事休すなのだけれど……!
グレンとイブンは杖を構えて臨戦態勢を取る。
とにかくジェーンが来るまで、なんとか時間稼ぎをしなければならない。
もうすでにシャンデリアも使えない状況で、しかも更に強くなってしまったドラゴンを相手というだけでも絶望的なのだけど、その上を行く最大の懸念点が一つある。
それは私である。
私というお荷物を守りながら戦うのはさすがに厳しい!
どうやら私はラウラ・メーリアンではなくやはりタワラ・コメーリアンだったようだ……。
いっそ、ドラゴンに食われることで時間稼ぎの一助になろうかな……コメだけに……。
そんなことを諦め気味に考えていると──突如、割れるような音と共に天井に穴が空いた。
そしてそこから現れたのは……精霊さんに先導されたジェーン!
天使のような可憐さと軍神のような勇ましさを兼ね備えた、あまりにも素敵すぎる登場シーンだった。
「トラコー!!!!!!」




