その270 空を飛ぶと意識も飛ぶ
ちなみに私の手は赤ちゃんなので、いつでも捻って欲しい……等と言う欲望はさておき、話は大体まとまった様子だ。
あとはジェーンがあの大広間に行くだけ。
ようやく、トラコさんを元に戻せる時が来た。
「ラウラ様もここから脱出して貰わないといけませんよ」
「あっ、そうでしたそうでした!」
「というわけで、砲台に行きましょうか」
「そうでした……」
そういえば私、ここから砲台で脱出するんだった……。
まじか……いざ目の前に差し迫るとやっぱりビビっちゃうところあるなぁ。
もしや運命は私相手には砲台使いたい放題だと思っているのではないだろうか。
そんなサービスいらないからね?
もっと風船に乗って脱出するようなメルヘンさが欲しいところだけれど、贅沢は言っていられない。
砲台で脱出するのもまあまあメルヘンなことだし、むしろ楽しむ精神でやっていくべきだろうか……。
「あの、ラウラ様、頑張ってください!」
「ありがとう、ジェーン……ちょっと頑張り方が分からないけど、頑張ってみるよ」
「ジェーン様も迷わないようにお願いしますよ。精霊の案内に従ってください」
こうして私は砲台に、ジェーンは精霊に導かれることになった。
導き手に月とスッポン以上の差を感じるけれど、私とジェーンの差を考えればとても妥当な違いと言える。
むしろ砲台なんて私からすれば好待遇なくらいかもしれない。
そんな風に自分を全力で誤魔化す私だが、砲台の近くまで寄ってみると、想像以上の大きさに思わず面食らった。
ドラゴン撃墜用なだけあってもはや人用の大きさじゃなさすぎて、死を具現化したような、そんな破壊的な迫力に満ち溢れている。
黒光りが怖すぎる。せめて白光りしていて欲しい。
「……いやぁ、おっきな砲台ですねぇ! 邦題は『砲・DIE~死への飛翔~』みたいな感じでしょうか。キャッチコピーは『この夏、最強のぶっ飛びと最恐のぶっ殺しを』とか!」
「何やら現実逃避のような言動ですが、入って頂けますか?」
「はい……」
目の前の現実から逃れるためにクソ映画を脳内で想像していると、トラコさんの手によって現実に引き戻されてしまった。
ええい! 苦境にあって必要とされるのは度胸と愛嬌! どちらも自信がまるでないけどやってやらぁ!
意気込みつつも全身を震えさせながら、私は砲台の中へとおさまった。
「それでは空の旅へご案内です──ラウラ様、後のことはお願いします」
「弾丸旅行って本当に弾丸になるって意味じゃないと思うんですけどね……はい、あの、頑張ります」
「それでは3・2・1……ファイア!」
トラコさんの掛け声を切っ掛けに、私はもう何度目かの空の旅を開始した……けれど、すぐに意識を失う。
再び目を覚ました時、そこには揺れるシャンデリアは存在していなかった。
それもそのはず、あれはもう落としてしまったのだから。
豪奢な天井はそのままなので、それを見るだけで、あの大広間に自分が戻って来たことが分かる。
成功して良かった……これで地面に埋まってたりしたらもう笑うしかないもんね。
……いや、笑えないわ!
「よう、起きたかよ」
ぼんやりしていると、空からイケ声が聞こえてくる。
視線を更に動かすと、シャンデリアの代わりに私の頭上にあったのは、グレンのイケ顔だった。
その頼りがいのある煌めくお顔を直視できず、私は思わず目を細める。
えっ? 嘘でしょ? シャンデリアの10,000,000,000倍輝いてるんですけど!?
というか下からの視点がレア過ぎてヤバイ! まるで膝枕されているみたいだ……。
………………えっ!? もしかして本当にされてる!?




