その268 毎秒死ぬ
「いや、死んでねぇっすよ!」
「そうですね、始まるのは拷問ですよね」
「しませんから!」
トラコさんのブラックジョークにツッコむ声は私のものではなく、画面越しに機敏に反応したジェーンのものである。
向こう側からはどうやら画面が浮かんでいるように見えるようで、ジェーンは覗き込むように横から顔を伸ばす。
「うわっ、横顔かわ──じゃなくて! ジェーン! 聞こえてるー!?」
「えっ、ラウラ様? 良かった、無事だったんですね……無事であってます?」
「辛うじて!」
「辛うじてでは心配がやまないのですが……この謎の四角も謎すぎますし、ラウラ様、状況の説明が欲しいです!」
「……それは、あの、当事者である私からさせて貰ってもよろしいでしょうか」
おずおずと私の横に立つトラコさんを見て、ジェーンが目を丸くする。
既にメイドさんになっていることは話しているので、誰であるかは分かっているだろうけれど、しかしそれでも突然メイドさんが出てきたのだから驚くのは当然ではあり、しかもそれが女装した幼馴染と来たら驚きはいかほどか……。
「……か、可愛くなったね、トラコ」
「いえ……ジェーン様ほどでは……」
「ううん、メイド服似合ってるよ。似合いすぎてるっていうか、美人すぎっていうか、ええっと……」
「…………はい」
……滅茶苦茶微妙な空気が流れてるー!
さすがのジェーンも幼馴染が女装メイドをしているという状況には馴染めないらしく、その態度は戸惑い100パーセントで構成させていた。
しかもドラゴンだからね。トラコさん、属性の数がおかしいんだよね。
「ちょいまちー! なんか子供が拷問をマジのマジで始めようとしてんだけどー! モジモジした会話してないで助けて欲しいんすけどー!」
「あなたの体どうなってるの? このツノみたいなの折っていい? あと子供じゃなくてレディよ」
「い、妹様!?」
硬い空気をぶち壊したのは精霊さんの悲鳴だった。
オタクは気まずい空気が苦手なので助かった……ナイス精霊さん! ナイス妹様!
精霊さんは散々だけども!
その後、妹様には適度に精霊さんと遊んでもらいながら(結局甘めの拷問かもしれない)、トラコさんは滔々とこれまでの流れをジェーンに話す。
流石に妹様本人に妹様が原因であるといきなり聞かせると何が起きるか分からないので離れて貰ったのだけど、こういう面でも精霊さんグッジョブである。
不憫すぎるけれど、その不憫さが有能さに繋がっている不思議な精霊さんなのだった。
「うん、大体分かったけど、トラコ、結論がなんで私の暴力なのかしら?」
「そ、それは……ジェーン様には妹様と同じ魔法がありましたし、私を叩きのめした過去もあるので……」
「ねぇ、私そんなに暴力の権化だったかな?」
「いや、もちろん楽しい思い出ではあるのですが、それはそれとしてパワーに溢れた思い出でもあるというか……インパクトがある記憶が残りやすいというか……決していじめっ子だったわけでもないのですが、正義のガキ大将と言いますか……」
「言えば言うほど酷くなってるから!」
自分の昔話をされると弱いジェーンは、顔を赤らめている。
ジャイアンから悪の部分を抜いたような子供もだったのだろうか……それってつまり綺麗なジャイアン?
しかしこうして落ち着いて話してみれば、2人はやはり仲の良い幼馴染なのだった。
砕けた口調のジェーン最高ゥー!
私にもこんな感じで接してくれたら毎秒昇天できるのになぁ。




