その261 孤独な竜の子供
全ての始まりは私のおしゃべりにあるらしい。
確かにいろんな人に話し過ぎた感はあるけれど、まさかそれが原因で……?
「ただ、ラウラ様がいなくてもいずれは起きたことだと思いますので、あくまで時期が早まった程度に思って貰えれば」
「細かなフォローは大変ふぁりがたいですが、その早まった事柄とはいっちゃいにゃんですか?」
「それは──妹様の気付きです」
「いもょうとしゃま?」
何故ここで妹様の名前が。
そう思った瞬間、同時にその答えも私の頭の中に浮上してくる。
けれど、それは本当にとんでもない想像で、咄嗟には自分を信じることができない。
そ、そんなことってあり得るの……!?
「どうやらお気づきになられたようですね……」
「で、でも、そんなことが本当に起こっちゃうんですか!?」
「勿論、普通の人間には起こりません。だから私も予測できませんでした。恐らくドラゴンは存在が曖昧すぎたのです」
そのトラコさんの言葉で私は事態の原因を殆ど理解できた。
私のおしゃべり、妹様の能力、ドラゴンという存在。
この三つの要素が絡み合った結果、信じられない大事故が起こってしまったのだ。
そしてその出発点は……間違いなく私!
「私が妹様にトラコさんがドラゴンであることを話してしまった……それが始まりなんですね」
「……そう言うことになります。通常、話したところで誰にも信じられないはずですし、妹様も長年お気付きになられていなかったので気を抜いていましたが──妹様はずっと強制力の影響を受けていなかったようなのです」
「で、でも、最初の時は信じていない様子でしたが……」
「それは周囲に合わせていたのだと思います。妹様は大人びてはいますがまだ子供。それが常識だと思えば、それを習って真似るのも不思議ではない」
子供は親を見て育つというけれど、実際は親だけじゃなくもっと多くのものを見て育つ。
そして見たものを学習して、それに合わせる……だからトラコさんも知らなかったのだ。
『トラコさんをドラゴンだとは思えない』、そんな法則が妹様には初めからずっと通用していなかったなんて。
「ラウラ様に言われて妹様は表には出さなかったものの、私がドラゴンなのかと疑問に思ったはずです。そして悩みに悩んだ結果、私に直接問いかけに来た」
「それが今朝の出来事ですか……」
「その時、私は不覚にも言葉が詰まってしまいました。今にしてみれば、すぐに否定すればよかったと分かるのですが、その時は迷ってしまったのです。致命的なミスでした……そしてその態度を見て妹様の悩みは確信に変わった」
渋い表情で後悔を口にするトラコさんだけど、そもそもトラコさんは自分がドラゴンであることを否定したりしないので、これはやむを得ないことだった。
トラコさんにとって自分がドラゴンであることは、誰にも信じて貰えないことだ。
だから、むしろトラコさんはそれを知る私と出会った時、笑顔を見せていたくらいで、とてもうれしそうだった。
きっとこの世界にたった一匹の孤独なドラゴンにとって、ドラゴンだと認識して貰えることは心の底で望んでいたことだったから。
それを咄嗟に否定しようなんて……そんなのは無茶がある。
「そしてドラゴン殺しの伝説が残るこの家ではドラゴンは絶対的な敵。故に妹様の『信じる魔法』によって曖昧だった私のドラゴンという要素に『狂暴で悪しき竜』という形が与えられ、そのまま具現化してしまったのです」
「そして現在に至ると……こ、これが全ての経緯だとするのならば──」
私は草原の上に膝を突き、手を突き、そして──勢いよく頭を突いた。
「──私のせいでした! 申し訳ありませんんんんんんんん!」
わ、私が妹様に、トラコさんがドラゴンであることをしゃべったせいでこんなことに!
ピタゴラスイッチの最初のボールを転がしたのは、この私だったのだ!
「頭をお上げください」
トラコさんは優しく私の肩に触れると、そのままそっと元通りに立たせた。
「きっかけはラウラ様かもしれませんが、悪いのは全て私です。ラウラ様にこの事態を予想することは不可能でした……けれど、私には予測可能なはずだった。予測していればもっと対策を講じることも出来たでしょうに……そもそも私がここにいること自体が、間違っていたのかもしれません」
「そ、それは違います!」




