その260 唯一無二なムニムニ
なんとこの大騒ぎの犯人は私だった。
くっ……やってくれたな、私!
それでいったい何をやったんだ、私ィ!
「──というのは、まあ、半分冗談です」
「こんな場面でまでメイドジョークを!? いや、じゃなくて、は、半分は真実なんですか!?」
完全にジョークならありがたかったのだけど半分真実となれば、それはもう四捨五入すると真実ということになる。
つまり嘘でも何でもなく、原因の一部が私に存在するということに!
私は犯人じゃなくても半犯人ではあるのでは……?
半人前の犯人さんなのでは!?
「ふっ……もう覚悟は出来ました。悪役令嬢らしく処刑されるとしましょう」
「覚悟を決めるのが早すぎませんか。あまり思いつめないでください。犯人とは言いましたが、あくまでも事故ですので、誰にも責任はないのです」
「じ、事故ですか?」
とても事故で起こりうる事態とは思えないのだけど、トラコさんの表情はとても慰めで言っているようには見えない真剣さだ。
事故でドラゴンに変えられてしまうって、あんまり想像出来ない構図だなぁ。
「全てはラウラ様、貴女様の特殊な力からスタートしているのです」
「私の特殊な力……?」
基本的に私はボンボンの凡人だ。
よって、私由来の特殊と言うのは数が限られている。
異世界から来たことが一番特殊だと思うけれど、最も活用されているのは──。
「結界を越える奴ですかね」
「そうですね、そしてその力は越えることに限ったことではないのです」
「そうだったんですか?」
「推測になってしまいますが、恐らく『世界の影響を受けない力』なのです」
「せ、世界?」
話がとても盛大になってきてしまった。
世界って、あの世界であってます? 瀬貝さんとかじゃなくて?
……いや、瀬貝さんの影響を受けない力は謎すぎるな。対瀬貝さん特化の力って何がしたいんだ。
「そしてこれは大前提として聞いて欲しいのですが、ドラゴンはこの世界に存在していません」
「えっ、いや、トラコさんがそもそもドラゴンですよね!?」
「私の存在はかなりのイレギュラーだと思っていただきたい。かつてはこの世界にもドラゴンが数多くいたらしいのですが、ある時期から他の世界に移ってしまったのです」
「世界越えの引っ越しですか! スケールが違いますね!」
「どちらかと言えば追い出されたという表現の方が近いかもしれませんが」
「世界越えの夜逃げですか! スケールが違いますね!」
「どちらにせよ褒めていただきありがとうございます」
そういえば似たような話はニムエさんから聞いたことがあった。
確かドラゴンは別の世界の存在で、だから認識するのが難しいのだとか。
けれど今はそもそも存在すらしていないと言うのは初耳な気がする。
「ただこれは言っておきたいのですが、種族ごと世界を越えると言うのは並大抵のことじゃありません」
「まあ、確かに一人が越えるのとでは意味合いが規模が全然違いますもんね」
「それはもう世界の根幹を変えてしまう程の出来事なのです。結果として、この世界にとってドラゴンは曖昧な存在になってしまったのです。だから普通は誰も正しく認識出来ません」
ニムエさんも推測でした語っていなかった部分だけど、ドラゴンへの認識の奇妙さは、世界からドラゴンが追い出されたことが遠因となっていたらしい。
壮大過ぎて私はもうついていくのがやっとで、驚くことすら出来なかった。
これだけ規模のデカい話されると、もう神話を聞いているようなもので、もはや現実味皆無だからね。
「なるほど、誰もトラコさんをドラゴンとは思えなかったのは、そういった事情なんですね」
もう言っても言っても誰も信じてくれない狼少女状態になっていたからね。
あれは辛かった……。
「ええ、ただ、認識出来てしまうイレギュラーが二人いたのです。それがラウラ様とジェーン……様だったのです」
「それがつまり、世界の影響を受けないってことなんですね」
「そういうことになります。ジェーン様の場合はもっと特殊なのですが、一旦おいておきましょう」
「いやー! そうですよねぇ! ジェーンだけはちゃんと話を聞いてくれましたもんね。色んな人にトラコさんがドラゴンだって言っても、誰も信じてくれませんでしたから」
「それです」
「ふぁい!?」
突如としてトラコさんが私のほっぺを掴んでムニムニとしてきます。
何故ここでムニムニタイム!? そして何がそれです!?
「それが出発点となり、現在の状況になっているのです」
「ふぉ、ふぉうだったんれすか!?」




