その259 犯人は豆
ジェーンの手をどう借りようと言うのかまるで分からないけれど、残念ながらジェーンはこの場に来れていない。
まだ迷路にいるのだろうか? それとも穴に飛び込んで別の場所に?
「ええっと、ジェーンはまだ来ていないのですが、何をしてもらうつもりなのですか?」
「それはですね……言いにくいのですが……」
視線を右往左往させながら言いよどむトラコさん。
その姿に私の乙女センサーが目敏く反応する!
ラブコメの気配を感じます!
「あっ、もしかして愛の力で元に戻る的なパターンですか!?」
姿を変えられた人が元に戻るパターンで王道なものはやはり愛、そしてそれに伴うキス!
お話において愛は殆ど万能みたいな力を見せることがあるけれど、これもその一つだ。
そしてそれはジェーンとトラコさんの幼馴染という関係ではより強く働きそうな気がする!
来い! 愛来い! 恋も来い! 恋来い!
「何をしてもらうかというと……まあ、私をボコボコにしてもらうことになるでしょう」
「暴力ですか!? 愛と真逆なんですが!?」
「愛で解決できることなんて殆どありませんよ」
「そんなご無体な!」
愛にできることはまだあるって歌で聞いたことあるのに!
むしろ歌なんて愛か哀しか歌ってないくらいなのに!
「というか、どうしてジェーンがトラコさんをボコボコにすると事態が好転するんですか? それならエクシュでも可能だと思いますが」
というより、エクシュは既にボコボコにした後である。
冷静に考えるとあの名剣、強すぎるな……時間制限はあるけれども、今のところ最強なんじゃないだろうか。
いや、魔物限定の強さかもしれないから断定はできないか……。
「エクシュ様が行っていることはあくまでも対処療法みたいなものでして、根本的な解決にはやや遠いのです。しかし、ジェーン様であれば根治療法が可能になります」
ジェーンとボコボコにするのとエクシュがボコボコにするのでは意味が違うらしい。
確かにビジュアルは大きく違うけどもね?
「ジェーンのパンチにはまさかヒール効果が……?」
ジェーンにポコポコと殴られたら心身共に健康になって行きそうな気はする。
まさかそれを狙って……?
なんなら私であればジェーンポコポコで全ての病を治して見せる自信があるけども!
ポコポコは万病に効く!
「ジェーン様のパンチは腰が入っていてなかなかの威力ですよ。まさに鉄拳です」
「そんな、あんな可愛らしい手なのに……」
「ジェーン様は妹様と一緒にいるのですよね?」
「あっ、はい。恐らく」
あの後どうなったのか分からないので何とも言えないのだけど、しかし妹様を一人にさせるジェーンでもないので、きっと一緒にいると思う。
かなり仲良さそうにしてたしね。
「なら更に効果が望めます。はやくここまで来て貰わないと……」
「あの、ど、どういうことなんですか?」
トラコさんが何を言いたいのかいまいち分からない私である。
ジェーンと妹様が一緒にいると効果が増すこととは、一体何なのだろう。
しかも最終的には暴力だという……妹様の教育に悪いからあんまり見せたくないくらいなのだけど。
「そうですね……あまり話したくなかったのですが、もう話すしかないでしょう。これはですね、私がドラゴンになった原因に関係しているのです」
「えっ、原因分かっているのですか!?」
「ええ、分かっています。原因も犯人も」
私たちではまるで分からなかったドラゴン化の理由だけど、トラコさんはとっくの昔にその原因に気付いていたらしい。
かなりの確信を持った言動に私は思わず息を飲む。
いっ、一体誰が犯人だと言うんだ!
「犯人は──あなたです!」
名探偵めいてびしっと指を突き出すトラコさん。
そしてその指の先にいたのは……紛れもなくラウラ・メーリアンなのだった。
なるほど、やはりラウラ・メーリアンが犯人だったのか。
前々から怪しい小娘だとは思っていたけれど、その疑惑が確信に変わってしまった。
ラウラめ! このどチビ豆粒! 懲らしめてやるぞ!
「……って、私じゃないですか!?」




