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その256 マスクにも慣れた時勢


 そこからのエクシュの動きは迅速だった。

 剣が抜かれたことで元気を取り戻したドラゴンが暴れ狂い始めるが、エクシュは落ち着いて私を抱き寄せると、片手でお姫様抱っこという超高等テクニックを披露します。

 いや、かっこよすぎない?

 それはお姫様抱っこ界隈での最上級の技だよ!


 私がちっこいから出来ると思うと生まれて初めてこの身長に生まれたことに感謝したくなりますが、しかしながら距離が近すぎてそんなこと思う余裕がないわけで。

 ただ、ここで私は鼻血を吹き出して出血大サービスをしてしまうのは問題がありすぎる!

 落ち着いてラウラ・メーリアン! エクシュはいつも私の腰に携えていたんだから、距離感は変わっていないよ!

 なんとか自分にそう言い聞かせて平静を保ちたいですが、くっ、詭弁すぎてちょっと厳しい!

 

 その瞬間でした。Tシャツのえくしゅかりばーの文字が見えたのは。

 その文字を見て私は一瞬で落ち着きを取り戻します。

 す、すごい! ダサTには人の心を平静にする効果がある!!!!

 しかもそれがメイドイン自分だと思うと効果倍増だ!


「ゆるりとしておられよ」


 落ち着いた口調で私にそう語りかけるエクシュだけれど、いやいや、こんなドラゴン大暴れ状態の時にゆるりとなんて──出来てしまうんです。そう、名剣ならね!

 理由は簡単で──揺れが全くない!

 まるで高級な椅子に腰かけたような圧倒的安心感と圧倒的安定感。

 ドラゴンと攻防を繰り広げながらでもエクシュは私を気遣う余裕まで見せている!


 要するにこの戦いにはそれだけのレベル差があるということで、そこから先は一方的な戦いだった。

 あらゆる攻撃を意に介さず回避するエクシュの身のこなしと、どんな堅牢な鎧も斬り裂く剣の力はすさまじく、瞬く間にドラゴンを丸裸にしていく。

 まるで一斬りごとに竜の力を吸い取っているかのようだけれど、きっとそれは比喩ではないのだろう。


 今、エクシュはトラコさんの体から竜をかき消しているのだ。

 そうまるで……消しゴムのように!


「どちらかと言えばお掃除に近い。水を浴びせて泥を取っている」

「そんな洗車みたいな感じだったんだ!?」


 急にこの戦闘が休日のお父さん味を増してきたけれど、しかしその車が超大型トラックでしかも暴れ狂うなら話は別でしょう。

 しかし、エクシュはそんな困難なミッションをやってのける。

 しかも私と言うお荷物を片腕に抱えたままで!

 

 やがて完全に力を失ったドラゴンは地に伏し、そして緩やかに元の姿へと、メイド服姿のトラコさんへと戻っていった。

 エクシュの大勝利である。

 というか、ほ、本当にトラコさんだったんだ……。

 何度も聞いていたとはいえ、こうして目の当たりにするとかなり衝撃的な現象だった。


 でも、これでようやく事態は解決に至ったかな?

 安心した私はエクシュの腕から降りてトラコさんの元に行こうとしたものの──それはグレンの一声によって止められた。


「待て! まだ何か詠唱しているぞ!」

「え、詠唱?」


 言われてもう一度トラコさんの方を見てみると、確かに口が高速で動いているように見える。

 こ、これは一体……?


「厄介だな、詠唱により再度竜化しようとしている。どうする主よ」

「ど、どうするって!?」

「主が望むなら彼奴の顎を破壊し、立ちどころに詠唱を止めることも出来るが」

「怖すぎるよ!」


 戦いの高揚でエクシュも血の気が荒くなっているのかもしれなかった。

 とはいえ、このままにしておくとまた初めからになってしまう。

 エクシュにも時間制限があるという話なので、そうなってしまうと私たちは今度こそ肉塊になってしまうだろう。

 なんとか破壊以外でお口を止める方法がないものか。

 私のうるさいお口以上に早く動くあれを止める方法が──。


 ──そういえばある。

 言葉だけを止める方法が。

 それは……マスク!


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