その244 封印は破れるためにある
とにかくイブンに頼んでエクシュをすっぽ抜いてもらうのは不可能らしい。
この後、紐を投げてエクシュに引っ掛ける作戦や私をぶん投げてドラゴンの上に乗せる作戦などが提案されたが、どちらも無茶がありすぎるという理由から却下された。
「ぶん投げ作戦は結構ありだと思ったけどなぁ……ぶっ飛ばされるのは慣れてますし」
「どうやったらそんなもんに慣れる事が出来るんだよ」
「でも強襲に気付かれて、空中でドラゴンに叩き落されたらお姉さんが床の染みになってしまう」
「うーん、天井になりたいと思ったことはありますが床になりたいと思ったことはないかなぁ」
「天井になりたがることも普通ないからな!?」
オタク界隈では天井になって推しを見つめるのと、観葉植物になって推しを見つめるのは割とメジャーな願望であるが、残念ながらグレンの理解は得られなかった。
でも床になりたい願望はあんまり聞かない。まあ、床になっても推しの足の裏とかお尻とかしか見えないもんね。
………………いや、それが見られるのはアレだけどレアであり、リアルにアリなのでは?
等と言う穢れに満ちた発想はさておき、私は天井を眺める。
そういえばここは上が広いんだよね。
でも、だからと言って上から降りるみたいな作戦は普通に気付かれちゃうから駄目なんだろうけれど。
「いや、でも、あれを上手く使えば或いは……?」
「おっ、何か思いついたか」
「非常に微妙なやつを思いつきましたが、やはり脳筋すぎるかもしれません……」
「お姉さん、会議においてはとにかく発言することが大事」
どんな案でも口にしないと意味がないわけで、イブンのいうことは大変正しい。
そして私の口も黙ってはいられない性質なので、自信はまるでないけれど、とりあえず思いついた案を言ってみる。
すると聞いた二人は滅茶苦茶渋い顔をするのだった。
「ま、まあ、最終手段だな、それは……」
「なるべく使わない方向でいきたい」
「うん、自分で言っておいてなんだけど、完全に同意見だよ」
というわけで私案は一旦保留された。
ある意味では封印である。この禁断の封印が解かれないことを切に祈る。
「やっぱりシンプルに行くのが一番だと思うぜ。真正面から俺がトラコの注意を集めつつ、隙を見てイブンとラウラで剣を取りに行く」
「ドラゴン相手に一対一で粘るのは現実的じゃない。注意を引き付けられるかも微妙」
「えっと、じゃあ、二人でやるのはどうですか? グレンとイブンの二人なら絶対大丈夫です!」
「……それはそうだが」
グレンが苦虫を噛み潰したような微妙な反応をするので不思議に思っていると、イブンが横から説明してくれる。
「それはお姉さんが一人になってしまうのであまりやりたくない……とお兄さんは言っている」
「心を読みやがったな!?」
「これは別に心を読まなくても分かる。露骨」
「なるほど、私一人になった時の危険性がありますか」
確かに私一人ではドラゴンに太刀打ちなんて出来ないだろう。
尻尾にぶつかるだけで死んでしまいそうなくらいだ。
「でも、先ほどの作戦と合わせれば成功確率は上がると思う」
「えっ、先ほどの作戦って……」
「なるべく使わない方針のやつ」
「あれするの!? 封印が解かれるの早すぎない!?」
保留し封印されたはずの脳筋作戦は、わずか数分足らずでその鎖を自ら引きちぎってしまうのだった。
くっ、筋肉には封印なんて通じないって言うの!?




