その243 同化している
ドラゴンよりも恐ろしきもの、それは推しの輝き。
その熱量たるや吐かれる炎の比ではない!
まさに紅蓮の業火である!
「グレン! 気軽にイケったら駄目だよ! 死人が出ちゃうから!」
「なんだよイケるって!?」
「そういうのは私ではなくジェーンにバンバンやっていかないと!」
「えっ、ジェーン? いや、な、なんかすまねぇ……」
無自覚なイケメンは罪だと教えると、グレンは釈然としない顔で頷く。
ふぅ、これだから顔も行動も全てが自然とイケメンな人には困ってしまう。
グレンがイケイケにイケをばら撒いてしまうと生ける人々が逝ける人々になってしまい、そのイケ力で世界がイケないことになってしまうと彼は理解していないのだ!
「危ない危ない、今、私、世界を救ったからね」
「どういうことだよ!?」
「お姉さん、気軽に世界救いすぎ」
ドラゴンに立ち向かう前からグレンのイケから世界の危機を救ってしまった私である。
そんな風に考えると、心なしかドラゴンに対する恐怖も薄まって来た。
推しの発するパワーに比べれば、ドラゴンなんて可愛いものなのだ。
「勇気が出てきたかも。私に世界を救わせてくれてありがとう、グレン」
「何に感謝してるのか謎すぎる上に感謝の規模がでかすぎる……」
「なんだか分からないけれど、落ち着いたところでドラゴン討伐の方法を話し合おう」
果たしてこれが落ち着いた状態と言えるのかは酷く疑問だけれど、話が一旦まとまったのは間違いない。
私とグレンとイブンは柱の裏で顔を突き合わせる。
エクシュ消しゴム作戦で、なんとしてもトラコさんを救わなくては。
「まずはえくしゅかりばーを抜かないといけない」
「刺さったままだもんね……」
ちらりとトラコさんの方を見ると、そこには立派に突き刺さった不立派なエクシュの姿が!
エクシュが作戦の要なので、とりあえず彼を手に取らないと話にならない。
「もうあの刺さった状態からもう斬っちまったらどうだ?」
「それでもいいと思うけれど、その場合でもエクシュの元までお姉さんが行かないといけないから難易度は同じ」
「つまり、ラウラを竜の背まで運ぶのがとりあえずのミッションか」
「ミッション内容ヤバすぎません? というか、えっと、イブンが行く分には暴れなさそうだから、それで持ってこれないかな?」
ドラゴンの横で横になれるあの能力があればそれも可能かと思ったけれど、どうやらそうではないらしくイブンは首を横に振る。
横横横だ。
「そういう邪念が入ると隠密出来なくなってしまう。相手と同調する必要があるから」
イブンの透明人間めいた隠密術はあくまでも敵意や作意の無い状態でのみ可能らしい。
文字通り、心を通わせることに真剣になっている必要があるということだろうか。
そうじゃなくても、ドラゴンの上に乗ろうとしたらどんだけ隠密していても警戒されるのも自然か……。
「相手の体の一部になるような気持ちがコツだよ、お姉さん」
「そんなチョウチンアンコウみたいな気持ちに人生一度もなったことがないのでコツと言われましても……!」
★ラウラの分かりにくいボケ解説!
チョウチンアンコウ
チョウチンアンコウのオス(小さい)には、メス(大きい)を見つけると嚙みついて付着し、そのまま組織と循環系が融合していく性質があります。オスはメスの血液から栄養を得ていくことになるのです。かつてはこのような生態が分かっていなかった為、オスが寄生虫だと思われていたこともあったとか。




