その241 ヌルゴン
「ジェーンは絶対違うからー! この身朽ち果てようとも断固否定する!」
「根拠はないけれど根性は感じる……」
「気持ちは滅茶苦茶分かるけどな……他に怪しいところを上げると、あとはうちの家も怪しい気がするな」
「キュブラー家ですか」
確かに妹様とトラコさんの組み合わせを揃えたキュブラー家は、何らかの思惑があってもおかしくなく、怪しさは溢れんばかりだ。
「グレンはその辺詳しく知らないのかな?」
「さあな、家は家、俺は俺だからな」
「キュブラー家も割と放任なんだね……」
メーリアン家に引き続き二例目の放任家系である。
もしや魔法使いはそちらの方が一般的だったりするのだろうか。
いや、まあ、メイドさんとかいる分、キュブラー家の方が愛を感じるけれども。
「うーむ、どうやら今の情報だけで犯人当てするのは難しそうだぜ」
お手上げと言わんばかりに手を上げるグレンの言う通り、これ以上考えても答えは出そうになかった。
推理には情報が必須なのである。それが今は足りて無さ過ぎた。
「犯人がいたとしても、その犯人が現状への解決方法を知っているとは限らない」
「あっ、そっか、暴走だけが目的なら別にそれを鎮める方法なんて知らなくていいもんね。むしろない方がいいくらい」
真犯人の正体に関してはかなり気になるところだけれど、今は気にしても仕方がないことなのかもしれない。
そうなると、現状私たちが考えるべきなのは──。
「トラコを人に戻す方法か」
「と言っても、それこそ何も分からないんだけども……」
「ヒントはある」
「ヒント?」
そう言ってイブンが指差す先には……ドラゴンなトラコさんに突き刺さったへちょい剣の姿が!
エクシュ! そういえば刺さったままだった!
「そういえば俺らも結構攻撃魔法で牽制したりしたこともあったんだが、鱗が強固すぎて意味をなさなかったんだよな」
「えっ、そうなんですか? エクシュでも刺さってるのに」
エクシュは壊れ物注意過ぎるという特徴があり、ちょっと落としただけでお皿の様に割れてしまう脆弱性を誇っていた。
その代わりに喋るし賢いし自動で治るから補って余りあるくらいなんだけどね。
でも、そんなエクシュが突き刺さっているということは、見た目に反してやわやわなのかと思っていたけれど……。
「えくしゅかりばーは特殊なのだと思う。恐らく魔だけ斬れるような特徴がある」
「えっ……あっ、そういえば最初の時、魔物の牙だけ斬ってたような」
それ以降は魔物と出会う機会もなく、エクシュのことは賢くて頼りがいのある名剣としか見ていなかったのだけど、そ、そんな戦闘的な機能もちゃんとあったなんて!
私、宝の持ち腐れも甚だしくない!? 豚に真珠ならぬラウラに名剣だよ!?
まさかまさかの意外な事実だった。豚に真珠は聖書から来た言葉だって話くらい意外!
「魔だけを斬れるから、もしかすると元に戻せるかも」
「マジかよ!? 見た目に寄らず凄い剣だったんだな!」
「ええ、私が持っていて大丈夫なのか不安になってきました……でもイブン、トラコさんは元々ドラゴンなわけだから、ドラゴンからドラゴンを斬っても無が残るだけじゃない?」
ドラゴン-ドラゴン=nullである。
これではトラコさんがこの世から消えてしまいそうな気がするのだけれど……。
「人に変身すると言うのは見た目だけの話じゃない」
「えっ、違うの!?」
「情報そのものを変換していると考えるべき。つまり存在そのものがドラゴンから人間へと変化していた。だから、ドラゴンと認識出来る者も少なかったのだと思う」
「なんか難しいこと言ってるー!?」




