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その238 被害状況変態


 万が一にもトラコさんに当たらないように、風魔法の補助を加えながらグレンは石ころを投擲する。

 石ころは見事な放物線を描いてイブンに命中するけれど……彼は横になったまま微動だにしない。

 その姿はまるで床に置かれた彫像の様である。

 ドラゴンと合わせてそういう芸術品のようだ。

 

「死んでんのかと思うくらい動かねぇな」

「やはり眠り姫の起床はキスに限りますか」

「……お前がする分には別に俺も止めないが」

「すいませんすいません無理です! 死んじゃいます!」


 内心ちょっとイブンとグレンのキスを妄想した私だが、手痛い反撃を喰らってしまった。

 無理すぎてカタツムリの様に縮こまってしまうくらい無理です……!

 もしかすると私の前世はカタツムリなのかもしれない。

 ……いや、私の前世は確定してるけども。


「もう更にぶつけまくるしかないな」

「すっごい可哀そうになってきたね……」

「しかもこれ、伝えたところで役に立つか怪しい情報だからな」

「女装仲間だよって話を伝えるだけだもんね……でも、きっと意味はあると思う」


 トラコさんがわざわざイブンにメイド服を着せたのは、きっと強い意志があったと私は確信していた。

 彼女……じゃなくて、彼は自身の容姿に、身なりに、職業に、確固たるプライドがあったと思う。

 そんなメイド服を同じ男子であるイブンに着せたのは特別な出来事だったはずだ。

 何よりも──トラコさんには私と同じメイド好きの魂を感じた!

 この魂の共鳴を信じる!


「投球を続けるぜ。石石石っと」


 グレンが投擲した石ころは一発のハズレもなく、次々とイブンの頭にコツンコツンと命中し続ける。

 これが野球ならエース間違いなしだ。

 ストラックアウトとかやらせてみたい見事な制球力に私は見惚れる。


 さすがのイブンもこのレベルの連打には不動でいられないらしく、虫を払うように小さく腕を振りながら、薄っすらと目を開く。

 そしてその瞬間、透き通るようなイブンの瞳と濁り切った私の瞳とが重なった。

 この視線の交差と同時に私は直感した。今、イブンは間違いなく私の心を読んでいると。


 そう、口に出す必要はない。

 私は強く念じればいいだけ!

 

「女装女装女装女装女装女装女装女装女装女装女装女装女装女装女装女装女装女装女装女装女装女装女装女装女装女装女装女装女装女装女装女装女装女装女装女装女装女装女装女装女装女装女装女装女装女装女装女装女装女装女装女装女装女装女装女装女装女装女装女装女装女装女装女装女装女装女装女装女装女装女装女装!!!!!!!!」

「めちゃくちゃ怖え……」


 冷静に考えると念じれば勝手に口から漏れだしてしまうので、唱えるだけなんて不可能なのが私の体質なのだった。

 もう呪詛の様に女装が口から漏れ続けてしまう。我ながら怖ッ!

 手を合わせてひたすらに女装と唱え続ける不気味な女の姿を見て、さすがにさすがのお優しいグレンもちょっとドン引きだった。


 ヤバい! 女装好きのとんでもない変態だと思われてしまう!

 事実だけど! 事実だけど女装好きだけの変態じゃないし誤解です!??????

 好感度の下がる音が聞こえてくるような光景だったが、しかし今は気にしている暇はない!

 女装女装! 私はなるべく小声で唱え続ける。


 やがてその意思はイブンに届いたのか、彼は小さくコクリと頷いて見せた。

 じょ、女装が伝わった!

 果たして女装という二単語のみでこちらの意思が十全に届いているのかは謎だったけれど、しかしイブンの任せてと言わんばかりに親指をこちらに上げる姿に、私は安堵の吐息を洩らした。

 

「ふう、なんとか被害が最小限で伝えることが出来たね。私が変態になるだけで済んだ」

「結構大き目な被害じゃね?」


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