その236 紙飛行機は神過ぎる
「──女装だ!」
「女装? 急に何言ってんだ」
「いえ、トラコさんとイブンの共通点を考えてたらそこに行きつきまして」
「行きつくところまで行きついた感じだな……もっと他にないのかよ」
大変怪訝そうな顔をするグレンを見て一度冷静になりつつ、再試行ならぬ再思考を繰り返す。
さすがに女装は安易すぎただろうか?
しかし、私から見て一番特徴的な共通点はそれなのである。
だって、これ意外かもしれないんですが──女装している人って実はあんまりいないんですよ!
特に生で目撃することは少ない。それ専門の場所に行かない限りなかなか女装をお目にする機会はないのだ。
二次元ならおやつ感覚で女装すると言うのにこれだから現実は!
そんな私の受けるインパクトを度外視しても、トラコさんとイブンとの間にある関係性にはメイドがそれなりに重要な気はする。
なにせイブンがメイド服を着ているのは全て、トラコさんの意思によるものだからだ。
「女装以外ありません! そもそもトラコさんがイブンにメイド服を渡したのは、同じメイド服似合いそう男子としてそこに仲間意識を抱いたからだと考えられます! つまりそれは意思の通った選択であり、お互いにとっても最大の共通点になっていることは想像に難くない!」
「ぐっ、一理あることを言いやがって」
「むしろ百理ありますよこれは!」
なんとか自身の趣味が多めに入った理論を通して見せたぞ!
しかし、問題はここからである。
この情報をなんとかイブンに伝えないといけないのだ。
「そんなわけでこれが心を読む一助になると信じて、イブンに伝えたいのですが、ここから叫べば伝わりますかね」
「女装ー!って叫ぶのか? とんでもなくヤバイ奴になっちまうな……そうじゃなくても、トラコが起きちまうからそれはやめた方がいい」
そうだった! 横ではドラゴンなトラコさんが寝ているのだから、再び暴れ出さないように伝えないといけない!
しかし寄り添うように寝ている片方だけを起こすのは至難の業だ。
ど、どうすればいいだろう……。
「近寄って話しかけたらトラコさん起きちゃいますかね」
「起きるだろうな。そもそも横で気付かれずに寝ているイブンが異常で、警戒心はかなり強いはずだ」
「うう、熊の巣穴に乗り込むが如き所業……まあ、熊は自分から巣に入ってくるものを襲わないなんて言う噂もあるけれど」
「絶対試したくない噂だな」
しかし、今の気分は本当に熊の巣穴を目の前にしているような感じだ。
ドラゴンという生物の迫力は間違いなく熊と並ぶ……いや、熊以上のものがあるのではないか?
少なくとも生物としては明らかに上位に位置するはず。
……まあ動物園でしか熊さん見たことないから、熊さんサイドから怒られる偏見かもしれないけれども。
熊嵐などを読めばその恐ろしさが恐ろしいほど理解できるだろうけれど、怖すぎて私には無理です。
うん、やっぱり熊は怖い。ドラゴンも怖い。
どっちも怖い!
推しの為なら熊の巣穴に飛び込むのも持さない覚悟ではあるけれど、怖いものは怖いのでなるべく近寄らずに済ませたいところだ。
そうなると遠くから何かをぶつけてメッセージを送るのが一番に思える。
「紙飛行機をぶつけたらイブンだけ起きないかな? いや、そんな正確なコントロール出来たら私、紙飛行機世界大会1位取れるな……無茶過ぎる。いやいや、出場してないだけで私に紙飛行機の才能が溢れんばかりにある可能性も否定できない?」
「否定できると思うぜ」
にべもなく否定されてしまった。
くっそー! 私には紙飛行機の才能さえない……!
自分の非才が悲しい! 紙飛行機一つ飛ばせないなんて、無力だ私は……。
「風でも操れればもしかするかもしれないのに……」
「操れるぜ」
「風さえ操れればー!」
「操れるって言ってんだろ」
「……操れますねそういえば!? グレンの得意魔法は風でした!」




