その234 睡眠楽手
私という重りを外した以上、二人に隙は無いはず!
好き好きだらけではあるけれども!
「言わばこれは重たいリストバンドを外したようなものなので、警戒心強く軽快に動けているはずです!」
「あいつらそんなハンデを背負ってここまで戦ってたのか……みたいなノリかよ」
「まさにそんな感じです。ですので大丈夫ですよ! 今は重りが移動してきたグレン自身を心配するべきですね」
「ネガティブが行き過ぎてよく分からねぇことになってやがる……!」
しかし実際私というお荷物ならぬ大荷物を背負ったままトラコさんから逃げ隠れするのは大変だ。
これは冗談ではなく事実なのである。
そもそも私、冗談とか言えないし。
「そんなわけで苦労かけさせて申し訳ありません……」
「安心しろよ、お前なんて俺にとっちゃ荷物にすらなんねぇよ。むしろ軽すぎて心配になるくらいだったぜ」
「今、物理的な話してません?」
「もっと食った方がいい」
「物理的な話してるー! う、嬉しい言葉ですけども、それはグレンの筋肉が優秀なだけですよ!」
確かに背が低い上に小食なので、平均から見れば重くはないと思うけれど、だからと言って軽々持ち上げられるほどではないと思う。
グレンの鍛え抜かれた上腕二頭筋からすれば、私なんてダンベルにもならないということだろうか。
なんにせよ軽いと言われるのは女子的には嬉しい一言であるのは間違いなかった。
ナチュラルなイケメン発言がここに発現。
これを私ではなくジェーンに言えたらいいのだけど、ジェーンの前ではそこまで落ち着いてはいられない問題があるんだよね……。
「そもそもお前はいざという時の覚醒が期待できるし、あんまり卑下しすぎんなよ。今は協力して頑張っていこうぜ」
「そ、そうですね。頑張りましょう」
「というか全面的にうちの家の責任だから、お前らは巻き込まれた側だ。マジすまねぇ……」
「いえいえいえいえ! 正面から巻き込まれに来た形なので!」
家のことにこちらを巻き込んで申し訳なさそうにするグレンだが、なにせ炎の中に突っ込んだのは私たち自身なので気にすることはない。
むしろ怒られて然るべきかもしれないくらいだ。
「お前ってアグレッシブだよな……」
「今回は私と言うよりジェーンですよ。トラコさんが心配な上にグレンもイブンも巻き込まれてたから──あっ、そういえばイブンはどこですか!?」
話を聞く限りではイブンもこの炎の結界の中に閉じ込められていたはずだけど、今のところ影も形も見当たらない。
「イブンならそこだ」
グレンはすっとドラゴンとなったトラコさんの方を指差す。
トラコさんの向こう側にいるのかと思ってキョロキョロしてみるが、私には何も見つけることは出来なかった。
「……ど、どこですか?」
「奥の方じゃなくて、手前だ」
「手前……?」
言われて視線を前方の方へ動かしていくと──イブンは確かにそこにいた。
なんと彼はドラゴンの横で横になっていたのだ!
横で横になっていたなんて言われてもよく分からないだろうから情報を追加すると……ドラゴンに添い寝する様にひっそりと目をつむり眠っていたのだ!
い、いつの間にあの位置に!?
先ほどまでは絶対いなかったはずなのに!
「イブンは運悪く事件が起こった時から屋敷にいて、巻き込まれちまったんだが、隠密が得意みたいでな、気付かれずに動けるんだ」
「だからって横で眠ることないと思いますけどね!?」
「あれは寝ているわけじゃなくて、心を読んでいるらしいぜ」
「心を?」
「目をつむるとよく読めるんだとよ」




