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その233 ネガティブが一周回った


「……何とか逃げ切ったか」


 大広間に点在する分厚い柱、その影に隠れた私とグレンは遠目からドラゴンの様子を窺う。

 どうやらあの大きな図体では捜索は苦手なようで、少し身を隠すだけでもうこちらを見失った様だった。そして既にこちらに興味を失ったのかドラゴンはひと眠りするべく体を丸めている。

 その挙動はまさに野生動物と言ったところで、どこか愛らしさすら感じられた。

 こうしてみる分には中々楽しいかも……動物園的な。

 

「助けてくれてありがとうグレン、本当に死ぬかと思ったよ」

「ああ、別にこれくらい……ってなんで鼻抑えてるんだ!? ぶつけちまったか!?」

「これは鼻血抑制だからお気になさらず!」


 勿論、本当に興奮で鼻血を噴出するほどギャグマンガの住人ではないつもりの私だけれど、グレンの筋肉の魅力は計り知れないものがあり、万が一があってはいけないので抑えていた。

 血の匂いとかでドラゴンに勘付かれたら死因鼻血になっちゃうしね……そんなの乙女ゲームでも乙女でもなさすぎる!


「しかしマジでびっくりしたぜ。急に空から剣が降って来てぶっ刺さった上に、お前まで降ってくるとはな」

「それは確かにシュールな光景だったね……って、あっ! エクシュ刺さったままだ!」


 再度物陰からドラゴンの背を眺めてみれば、そこには綺麗に刺さったままのエクシュの姿が!

 回収し忘れたー!

 いや、そんな余裕はなかったから仕方ない面はあるんだけど、あのままにするのはドラゴンにもエクシュにも悪い気がするなぁ。


「逆に抜いたら暴れ出しそうな気もするし、しばらくは放置しとこうぜ」

「うん、まあ、そうするしかないのかな……」

「それよりラウラ、どうして空から降って来たんだよ。状況が謎すぎて気になって仕方ないぜ」

「実は私も謎すぎてよく分かってないんだけど、頑張って説明するとね──」


 私はこれまでの流れをグレンに話した。

 割と珍道中感ある話を聞いてもなおグレンは笑わずに真剣な顔で話を聞いてくれて、思わず嬉しくなってしまう。こういう優しいところが本当に推せます。ジェーンといちゃいちゃしてくれー!


「こっちが思っているよりヘンテコなことになってるみたいだな」

「グレン、私も聞きたいんだけどあのドラゴンは……トラコさんであってるよね?」

「ああ、間違いない、俺の目の前で変身したからな」

「グレンの目の前で?」


 グレンは深く頷きつつ、チラリとドラゴン──トラコさんの方を見ながら話を続ける。


「トラコと和やかに話していたんだが、そこに妹が来てこう言ったんだ。『トラコってドラゴン?』ってな。それを聞いた瞬間、トラコの姿は急激にドラゴンへと変化していった」

「妹様の質問が切っ掛けになったってこと?」

「素直に考えれば、正体がバレそうになって暴れることにしたとしか思えないな」


 グレンの意見は確かにその通りで、状況から推測すればトラコさんは隠蔽の為にこの屋敷を火で包んだとしか思えない。

 けれど、私としてはその意見では納得できないところがある。

 なんというか──トラコさんのキャラに合わないのだ。


 そんなことで暴れるような人ではなかった。むしろもっと飄々と「はいドラゴンですよ」と答える人だったはず。

 そもそも私がそれを聞いた時は怒ったりしなかったという前提もある。

 キュブラー家の人に聞かれた場合は別ということ?

 色々考えるけれど、答えは出ず疑問は尽きない。


「それでドラゴンになった後は暴れるあいつを見張りながら、こうして身を隠してたってわけだ」

「なるほど……大変だったね」

「話を聞く限りお前らの方が大変っぽいがな。俺としては取り残された妹とジェーンが心配だぜ」


 焦ったようにグレンは髪を掻きむしる。

 グレンにとって最愛の妹と最愛のジェーンだ。その二人が一緒になって危険な場にいるとなれば、彼が心配で仕方ないのも無理からぬ話である。

 けれど、私はあまり心配していない。


「大丈夫だよ、グレン! ジェーンも妹様も滅茶苦茶強いから! むしろ私と一緒にいるより安心できると思うな!」

「ネガティブが行き過ぎて逆にポジティブになってやがる……!」


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