その228 ハンマー少女
そう、チャレンジすることは悪い事ではない。
例え失敗に終わっても、失敗だったと言う事実は貴重な財産になるからだ。
実験は失敗を積み重ねて成功への山道を作るもの──だと思うなぁ!
「己の限界を超えることを『壁を壊す』とも言いますし、それの物理版だと思いましょう妹様!」
「その言葉は心理版だからいい言葉なんだと思うわ……」
とにもかくにも試してみないと始まらない。
妹様と話している間にも、ジェーンは既に杖を構え、魔力を溜めているところだった。
そして先ほど精霊さんを消し飛ばしたばかりの光の球を──壁に放つ……!
ギューンという音をたてながら高速で壁に激突した光球だったが……。
しかし、やはりと言うべきか壁には傷一つ付かなかった。
一応、ドアにも同様のことをしてみたがびくともしない。
「相当強固ですね。少なくとも私の魔法では厳しそうです……」
「とはいえ、現状ジェーン以上の火力はないし、困ったね」
「ふふふ……どうやら私の出番のようね」
「妹様!?」
謎に自信満々な妹様が仁王立ちで壁に向き合う。
そしてそのちっちゃな拳を……勢いよく壁に叩きつけた!
一瞬の静寂、そして壁は──当然の如く壊れない!
「むしろ妹様の拳が壊れちゃわないか心配になりますから! いきなりはやめてください!」
「ラウラ様、妹様は無敵なので」
「あっ、そ、そうだったね。でも壁に拳を振るう姿を見ると、つい心配に……」
「うーん……どうして壊せないのかしら」
こちらの心配をよそに妹様は首を傾げている。
まあ、無敵の体を持っていれば壁くらい壊せない方がおかしな話なので、不思議に思う気持ちも分かる。
「でも硬いものと硬いものをぶつければどちらかが欠けるはずだよね。モース硬度だってそうやって測るんだし」
「妹様の意識的な問題なので、壊せないし自分も傷つかないと思っているうちは、互いに無傷で終わるのだと思います」
「だったら……その意識に力を加えるのはどうかな」
こう、互いに拳を合わせたりしたらいけないだろうか。
「なるほど、それはいいかもしれません」
要するに私は友情パワー的に力を合わせる意味で言っていたのだけど、ジェーンは全く異なる受け取り方をしたらしく、首を傾げ続ける妹様を抱き上げると……まるで剣の様に構える!
いや、どういうこと!?
なんで妹様を武器みたいにしてるの!?
あと意外と力持ちなんだね!?
「身体強化魔法を使っています!」
「う、うん、それはいいんだけど、なんで妹様を持ち上げたの!?」
「ラウラ様の言う通り、力を加えようと思います。物理的に」
「さっきから私たち、物理的過ぎないかな!?」
抱えあげられた妹様は何が起こっているのか分からない様子で目を丸くしているけれど、私には分かる。
ジェーンは……妹様を壁に叩きつけようとしているんだ!
妹様が無敵であり強固である限り、怪我はしないし更に壁に対する武器に成り得るのも分かるけれど──絵面がヤバすぎる!
完全に児童虐待だよぉ!
「やめておこうジェーン! 確かに勢いを付ければ壊せるかもしれないけど、ヤバすぎるから! 本当にヤバすぎるから! 子供を壁に叩きつける構図は! 映像化できないよ!」
「子供扱いしないで貰える?」
「今そこにツッコまないでください妹様ぁ!」
ジェーンは幼少期に妹様と似たような体質にあったらしいので、それでこれくらいなら大丈夫と推測しているのだろう。
むしろジェーン自身にそういう経験がある上で言っているのかもしれない。
そして実際大丈夫なんだろうけれど、大丈夫なんだろうけどなんだかなぁ!
「私としてはグルグル回してからぶつけて欲しいわ。あれ楽しいの」
「妹様、受け入れ態勢が早すぎませんか!?」
「だって無敵だし」
「そりゃそうかもしれませんが……!」
「大丈夫ですよ、ラウラ様。見た目が怖いだけです」
「うう……お互いに了承済みなら私が口出すことでもないみたいだね……」
どうやらジェーンと妹様のこういうところの波長はかなり合っているらしく、もはや抱き上げられ、抱きかかえている姿が様になっているくらいだった。
これ以上、私がワーワー言っても邪魔になるだけなので、もうここは二人に任せるしかない。
妹様ハンマー作戦、開始である。




