その226 嫉妬の火
「ここを通りたいんですけども」
「あー、すぃーません。許可なしじゃちょっと無理めっすね」
軽い態度で正論を言われてしまった。
そうだよね、一声かけただけで通れたら門番失格だもんね。
「とはいえ簡単に諦めるわけにはいかないんです! そこをなんとか!」
「いやマジ可愛い子に協力したいのはやまやまなんすけど、俺も仕事には逆らえない哀れな家畜……いや火畜っつーか、火の精霊って結局奴隷みたいなところあるんすよねぇ」
「精霊さんだったんですか! しかも火の! かっこいいです!」
「え? マジ? 俺かっこよ?」
「かっこよです!」
火の兵士さんは火の精霊さんだった!
そして造形はなかなかかっこいいのである。この抽象的で何処かペルシアンな雰囲気のある姿は、オタクとして好感を持たざるを得ない!
「作画カロリーとか滅茶苦茶高そうな見た目ですが、私、むしろそういう詰め込んだデザインが好きなんです! 漫画で言えば乙嫁語り的と言いますか、よい刺繍していますよね。炎の体に直に刻まれているところがポイント高いです! もしかしてこれ全てが魔法式の役割を果たしていたりするんでしょうか? だとすると見た目だけじゃなく実利的でもあるわけで更にテンション上がっちゃいます! なんというか、技術を詰め込んだ結果として芸術にもなった物ってすごく良いですよね。複雑な配管とか電子回路基板とかも結構好きです! 密教の曼陀羅なんかもあれは模式的に思想を表しているわけで、技術的であり同時に芸術的でもあると言えますよね。精霊さんもその身にたくさんの意思を詰め込んでいそうな感じが大変かっこよいと思うんです!」
「よ、よく分かんねーけど、めっちゃ褒められてる? 俺、めっちゃかっこよ?」
「めっちゃかっこよです!」
「マジかー! 今まであんまそういう事言われたことないし、マジ嬉しいわー!」
テンションが急激に上がってしまい、お口の暴走いちじるしい私だが、精霊さんも気を良くしてテンションを上げまくっていた。
距離がかなり近くなっていてもう触れあえるほどだけど、相手が非人間的なのであまり気にならない。
「可愛い上にいい子じゃん、えっ、名前は?」
「ラウラです!」
「ラウラちゃんかー! どうすっかなー、精霊的に清い人なら通しちゃってもいいんだけどさー」
「き、清さですか? それは自身ないですね……えっと、友達に清い人がいるので連れてきてもいいですか?」
「いやいやラウラちゃんマジいい線いってるって! どう? この後俺とお茶でもギョワーーーーーーーーー!」
「せ、精霊さーん!?」
友好的に精霊さんが私の肩に手を回したところで、横合いからすごい勢いで光の玉が飛んできて精霊さんを消し飛ばしてしまいました。
恐る恐る横を見ると──ジェーンが恐ろしい形相で杖を構えている!
怖い! あんな顔のジェーン初めて見た!
推しのレア顔は嬉しいけど、怖いものは怖いなぁ!
「ラウラ様、時間もありませんので」
「そ、そうだね……時間使わせちゃってごめん……」
「いえ、いいんです。あと精霊は死んでも後日自動で復活するので、安心してください」
「精霊さん、命が軽いなぁ……」
結局、武力行使が一番手っ取り早いのだった。
何という厳しいリアル。そしてごめんなさい精霊さん……。
「貴女の友達って怖いのね……」
ぽつりと呟く妹様の表情が、流石の流石に引き気味だった。
い、いつもは怖さとは対極にいる人なんですよ? 本当に!




