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その222 【速報】トラコさん、ドラゴンだった


 初めて来たときも煙は出ていたけれど、流石に炎上はしてなかった。

 原因は短絡的に考えれば、隙あれば燃えている彼女の失火が原因としか思えないけれど……。


「いえ……これは別の原因があるかもしれません」


 何かに気付いたのか、ジェーンはしげしげと炎上するお屋敷を眺めながら見識を述べる。


「これは燃えているんじゃなくて……炎で結界が張られているのではないでしょうか」

「結界? 炎で?」

「はい、よく見てください。お屋敷に火がついているのではなく、その外側、少し空間を開けて炎が取り囲んでいるように見えませんか」


 そう言われて見てみれば、初見のインパクトがあり過ぎてそれに目を奪われていたけれど、確かに屋敷そのものが燃えて薪になっているのではなく、炎が周囲で浮かんでいるだけにみえる。

 これはかなり高度な魔法だ。少なくとも妹様の扱う強引なモノとはジャンルの違いが感じられる。


 ……というか、つまりこの炎は失火ではなく仕組まれたものだってこと?

 だとしたらその動機は──


「──もしかして、中のみんなを閉じ込めている?」

「いえむしろ、こちらが入れなくなっています」

「あっ、そうか。えっと、じゃあこれって、もしかしてヤバい事態?」

「まあ、火事がそもそもヤバい事態ではあるのですが、事故ではなく事件性は増しましたね……」


 そんな話をしている最中、炎に包まれた屋敷から大きめな黒い影が飛び出してきた。

 すごい勢いでこちらに飛んで来たそれを、ジェーンがしっかりと両腕で受け止める。

 驚くことに飛んで来たそれは──妹様だった。


「妹様! だ、大丈夫ですか?」

「ごっほごっほ……あっ、ラウラ! き、聞いて聞いて!」


 ジェーンに抱きかかえられたままで妹様は私の襟首を興奮気味に掴む。

 そして世紀の大発見をしたと言わんばかりに、大きな声であることを口にした。


「と、トラコはドラゴンだったのよ!!!!!!!!」

「…………………………あっ、はい」

「なに!? そのしょっぱすぎる反応は!?」

「すいません、存じております」

「えー!? そ、そういえばそんなこと言ってたっけ?」


 妹様にとってはさぞ驚きの事実であっただろうことは分かるのだけど、私にとってはあまりにも既知の事実すぎた。

 もうトラコンっていう名前から明らかだもん!

 初対面で分かってたよ!

 

 いや、でも、妹様がその事実に気付いたことは大きい。

 何せ今まではトラコさんがドラゴンだと認識できなかったのだから。


「それよりも、あの、この炎の原因が聞きたいのですが……」

「あっ、そうだよね! 妹様、これは一体?」

「だから、トラコがドラゴンだったのよ!」

「それは存じているのですが……」

「ドラゴンだったトラコが、屋敷を炎で閉じ込めちゃったの!」

「トラコさんが!?」


 トラコさんがドラゴンであることには驚かない私でも、その事実には目を丸くせざるを得なかった。

 まさか、この事態の犯人がトラコさん……?

 ど、どうして!? 動機が分からない!

 分からないけれど……一番怖いのは、これが世界の滅びに近付いている可能性があること。


 困惑しつつ、チラッとジェーンの方を見ると、彼女の目はもう炎の屋敷へと向いていた。

 そこには強い意志が感じられて、今にも炎の中に飛び込みそうな気配すら感じられる。

 そう、ジェーンにとってトラコさんは旧友、そんな彼の暴走を優しい彼女が看過するわけがないのだ。


 そして私は──そんな推しを応援するのが推し事!

 私はジェーンとそっと手を繋ぐ。


「私も一緒に行くよ! トラコさんも、このお屋敷も、どっちも心配だし」

「ラウラ様……でも……ううっ……あ、ありがとうございます!」


 ジェーンは果たして私を巻き込んでいいのかとしばし逡巡した後に、こちらの手をぎゅっと握りしめ受け入れてくれた。

 こうして私たちは炎の中に身を投じることになる。

 普通であればそんなことが無茶なのは、火を見るより明らかなのだけど、燃え盛るこの炎よりも、ずっとずっと爛々と輝くジェーンの瞳に比べれば、こんなのはボヤ騒ぎだ。

 でも、まあ、うん、怖いのは怖いけどね!


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