その221 燃え燃えズッキュン
なりませんか? と言われるとそれはもう……なりまくりますとしか言えない!
人間は単純なもので、結局のところ接触回数が増えれば増えるほど好きになる……みたいな理屈はありがちではあるけれど、それをジェーンが口にするとあまりにも刺激的すぎた。
もはやこれは私を死へと誘う死激だ。
これ以上ないはずの私からジェーンへの好感度をこれ以上上げて一体どうするつもりなの!?
「じぇ、ジェーン……これはちょっと私には過剰な幸せかも……!」
「幸せに過剰なんてありませんよ。不幸にはあるかもしれませんが」
「すごくいい言葉だけども……私の顔面温度がすごいことになっているから……」
「ふふふ、よく見てくださいラウラ様。私の顔も大炎上中です」
「本当だ! 風邪ひいているみたいになってる!?」
この状況に於いて冷静になれるほどジェーンもクールではなかった。
ジェーンの顔は赤を通り越して、その更に上の紅も通り越して、もはや真紅へと変化を遂げていたのだ。
そうだよね! こういうのキャラじゃないもんね!
それでも無理をして私との友情を深めようとしてくれているんだジェーンは!
「私、最近思うんです。羞恥心に負けて何もしないことこそが、最も羞恥すべきことなんだって」
「それは……分かるかも」
「だからそんな自分を変えたいんです!」
ジェーンの力強い言葉を聞いて、私は自分の身につまされる気持ちになった。
『真実の魔法』をかけられたことで、強引に羞恥心と恐怖心を超えることが出来た私だけれど、その前までは何もしない人だった。
とても愚かな人だった。
それと似通っていると思うのも失礼な話ではあるのだけど、でも部分的にはジェーンも羞恥心と恐怖心で孤独に過ごしたのは同じで、その部分に私はシンパシーを感じたこともあった。
そんな彼女は今それを自力で超えようとしている。
嗚呼、なんて素晴らしい推しだろうか。
やはり彼女は私が最も憧れた女性で、尊敬してやまないヒロイン、ジェーン・メニンガーなのだ。
「大義名分もありますしね」
「大義名分とは……?」
「それは……秘密です!」
ちろりとお茶目に舌を見せるジェーンの姿を見て……私の意識は空の彼方へと吹っ飛んでいった。
雲を超え空を超え大気圏を超え宇宙を超えて、私の心は宇宙の果て、森羅万象の理に気付く。
推しは──神!
それだと神がいっぱい存在することになるけれど、別にそれでいい! 神はたくさんいても良い! 八百万の国から来ましたから!
「ラウラ様? 口から唾液の方が零れ落ちておりますよ……?」
「はっ……ごめんジェーン! ちょっと宇宙にいて……」
「帰還してくれて良かったです」
正気に戻ってもなお、私の顔は真っ赤であり、ジェーンの顔も真っ赤だった。
以前に私はこの姿を錯乱しているサクランボと表現したけれど、今はもう互いに火となってしまい炎の権化となっていた。
「気のせいか、ちょっと煙の匂いもする気が」
「はい、確かになんだか煙たいです。それに火の粉の気配も……ん?」
おかしなことを言っている自分たちに気付き、二人顔を見合わせてから周囲を見渡す。
するとそこには勘違いではない煙の気配と、明々とした光の気配が。
ゆっくりと、恐る恐る顔を上げるとそこには……大炎上しているキュブラー家があった。
「えええええええええええええええええええええっ!? 燃え、燃え、もえもえになってる!」
「ほわぁ………………」
混乱する私と絶句するジェーン。
そりゃそうもなってしまう……だって職場が燃えているんだもの!




