その219 変化の変化が変化する
「どういうことですか……?」
「つまり、ドラゴン単体で世界を滅ぼすことはないが──その主従が共に同じ方向を目指せば、恐らく滅ぼせるという話だ」
ドラゴン単体では世界は滅ぼせない──というのはトラコさんが話していたけれど、確かに不思議には思っていた。
ではどうしてタバサさんは私にわざわざ忠告してきたのかと。
もしやタバサさん、何か勘違いしているのでは?とか不遜なことを思いもしたけれど、当然あのレベルの人がそんな適当なことを言うはずもなかった
「タバサさんの危惧はそこですか?」
「さあな、あいつの考えることは吾輩には分からんが……だが常識改変のドラゴンと常識具現のお嬢様の二者の組み合わせが非常に興味深いのは確かだ。もしかすると、それそのものがキュブラー家の魔術研究なのかもしれんな」
「キュブラー家にそんな狙いが……?」
咄嗟に否定しようとする私だけれど、しかし、確かにキュブラー家は強さを追い求める家であり、そういった研究をしていてもおかしくはないと思いなおす。
そもそも妹様は養子である。
それ即ち、その力が偶然舞い込んできたのではなく、必然として求めたという見方も出来る。
「世界最強を目指すキュブラー家、その果てが世界最終となるのなら、吾輩としては泳がせてその終焉を見物するのも一興ではあるのだが……」
「興なら私がいくらでもおじ様を楽しませますから、恐ろしいことを言うのはやめてください!」
久々に邪悪な笑顔をその端正な顔に浮かべてクククッと笑うおじ様。
どうにも根本が悪属性すぎるんだよね……!
好みの表情だけど、世界平和第一で!
「勿論、愛するラウラに誓ってその興に殉じる気はない。今のはジョークだ。冥土ジョーク」
「確かに黄泉の国の様に恐ろしいジョークでしたけども!」
「まあ、あまり心配しなくてもいい。あくまで可能性の1つであり絶対ではない。むしろ、ラウラがあの屋敷に働きに出たことでその未来も回避された可能性の方が高い」
「えっ、私が屋敷で働いただけでですか?」
気付かぬ間に世界は救われていたと?
にわかには信じがたい話に私は首を傾げるけれど、横でジェーンは何故か深く頷いていた。
「ラウラ様であればすれ違っただけで世界を救ってもおかしくはありませんね……」
「どういう状況それ!? そんな全盛期のイチローさんみたいなことできないから!」
「流石に冗談ですが、でも、あり得ない話ではないですよ。新しい出会いは人を大きく変えるんです。私もそうでした」
「そういうものかなぁ……」
出会いがあれば人も変わる。
その変化は未来の変化にもなって、世界も救われる。
そんなとんとん拍子な話が本当にあるのか、私には分からないけれど、ジェーンが言うのならきっとそうなのだろう。
推しの言うことに間違いなし!
「まだ滅びる可能性も残されているかもしれんがな」
「推しの言うことが相反してしまった……!」
「私、今度トラコに会ってみますよ。世界とか滅ぼすなよって言っておきます」
「そんな夜更かしするなよみたいなノリで言われても、トラコさん困っちゃうだろうなぁ……」




