その216 空前のコスプレブーム
ジェーンは地面にレジャーシートを敷いてクッションを抱きしめたまま本を読んでいた。
なんと優雅な光景……理想の休日をジェーンは体現している!
というか、手慣れ過ぎでは!?
「すっごい手慣れてる!」
「あっ、ラウラ様」
つい声を上げてしまった私を見上げるジェーン。
こちらの帰還に嬉しげな彼女の純真な笑顔は、玄関で主を待つ犬にも似ていて心が超癒される。
美少女の上目づかいはどうしてここまで人の心を打つのだろうか。
「ごめんね、ジェーン。いつもお待たせしちゃって」
「いえいえ、私、待つのは大得意なので。むしろ誰かを待てるのって幸せなことだと思いませんか? 私、待ち人も長らくいませんでしたから」
「いやその気持ちは──めっちゃ分かるッ!」
同じボッチ仲間として待ち時間を苦にしないというのも、そして人を待つ時間が好きというのも大変良く分かる話だった。
ボッチ歴が長すぎて一人でも勝手に楽しめるのである。
私に至っては本も必要ない。このお花畑全開の脳みそがあれば十分!
「とはいえ心苦しくはあるからさ、おじ様が一緒に結界に入れるようにしてくれたんだって」
「それは嬉しいですけど、あの、大丈夫なのでしょうか、それは……」
「うん、ヤバい気しかしないけど、今は受け入れておこう!」
私と全く同じ心配をするジェーン。
その懸念はごもっともなのだけど、しかしおじ様も善意で言っていることは間違いないと思う。
私は同じオタクとして、おじ様のメーリアン家への愛を疑うことはしない。
愛が暴走する可能性は十分に気を付けたいけどね……。
「ラウラ様、逞しくなりましたね……やっぱりお仕事していると成長率が違います!」
「そ、そうかな?」
確かに最近は細かいことが気にならなくなってきた。
ここ最近は個性的な人に囲まれすぎたせいか、どうやらスルースキルが高まったらしい。
あの屋敷、普通の人がゼロだからね。常識人な私が頑張らないと……!
「本音を言うと私も一緒に働いて見たかったです」
ジェーンは少し寂しげな顔で嬉しいことを言ってくれる。
さすがヒロイン、人が喜ぶ言動を自然と心得ている! 私としてもジェーンの働く姿は貴重なので存分に見物したい所存である。
いつかどこかでやりたいなぁ。
「うん、いつかはやってみたいね」
「酒場の売り子衣装とかラウラ様似合うと思うんです!」
「最近は私に何か着せようとするのがブームなのかなぁ!?」
まさかジェーンもラウラ着せ替え勢だったなんて……!
あと酒場の売り子衣装ってあれでしょ? ドイツの民族衣装っぽいやつで、ディルンドルでしょ?
あれはおっぱい大きい人しか似合わないから!
むしろジェーンの方が似合うから!
謎の着せ替えブームに私は心底震えた。
私、残念ながらコスプレ趣味はないんだよね……興味はあるんだけど、必要とされる勇気が大きすぎるから。
それにこのままでは最終的にバニーガールあたりに辿り着きそうな恐怖がある。
だって──私が逆の立場なら絶対に着せるもん!!!!!
バニーラウラ! アリ!
ともあれ、私がそれを着るとウサギはウサギでも狩られる方になるのは間違いない。
行きつく先は恥ずか死である。
嗚呼、これが一過性のブームであることを願うばかりだ……。




