その215 おじ様相談所
「とまあ、そんな感じのことがあったんです」
私はフカフカの椅子に座り、赤くて甘いお菓子を頂きつつ、これまでの話をおじ様に話す。
そう、ここは封印空間。メーリアン家の中興の祖的なお方、クロウム・メーリアンが封印されている場所だ。
基本的には真っ暗で何もない場所のはずなのだけど、私が来るようになってからはおじ様が張り切るようになって、少しずつ物が増えてきている。
例えば私の足にはウサギモチーフのスリッパが履かされているし、天井とかないはずなのにシャンデリアが頭上でプカプカと浮かんでいたりする。
どうやって用意したのかは果てしなく謎だ。
なんならこのお菓子もどうやって生み出したか謎。
ごく普通に食べてしまったけど、あの、食べて大丈夫な奴ですよね……?
「どうやら吾輩の世界一可愛い妹が邪魔をしてしまったようだな」
おじ様が私の話にいの一番に反応したのは妹さん、タバサ・メーリアンのことだった。
結構なシスコンだというおじ様なので、さもありなんと言ったところか。
「いえいえ、決して邪魔ではないですよ。あと、あの、確かに可愛い妹さんでしたね!って言いたいのですが、顔が一緒なので言いにくいです……」
「ああ、そっくりだったろう」
「予想以上にそっくりでしたよ! もっとほんのり似ている程度なのかと思ってました」
アニメでもゲームでも漫画でも、「お前は○○に似ている」みたいな台詞が入るときは、あくまでも面影がある的な意味であり、容姿が完全に一致しているという意味ではない。
いや、よしんば容姿が一緒だったとしても、普通は髪の色とかに違いが出るのが定跡なのだけど……私とタバサさんにはそれすらないもんな。
はっきり言って──描き分けが出来ていない!
おっぱいの大きさは違うけどさ! そこだけだもん!
おっぱいで描き分け出来てるなんて言わないでくださいよね!!
むしろそこは私の方を大きくして一致させても良かったんだよ????????
「しかし妹も適当なことを言う女ではないのでな、何か意味があるのだろう」
「ドラゴンが世界を滅ぼす感じの話も、根拠はあるってことですね」
「いや、根拠はないかもしれない。吾輩と違ってあいつは感覚派なのだ」
意味はあっても根拠はないと言うおじ様。
それって大変不確かなのですが、どれくらいあの人を信じていいのでしょうか……。
「なんだかあやふやですね……もう一度会うことは叶わないのでしょうか」
会話を重ねればもっとキャラクターも考え方も分かるだろうと思うのだけど、再会を希望する私におじ様は静かに首を横に振った。
「あいつはアウトドア派だからな……吾輩と違って。あと吾輩と違って友達も多いし、吾輩と違って運動も得意だ」
「おじ様と違うところが多すぎますね」
結構正反対な兄妹らしかった。
思えば私とお兄様も正反対なところはある。そこまで含めて似ていると思うと、もういっそ不気味ですらあるな……。
というか、世界中を旅しているというタバサさんをアウトドアで済ませるおじ様も豪胆というかなんというか。
逆に封印空間に閉じ込められているおじ様をインドアと呼ぶのも憚られるところがありますけどね?
「ところで、外で友達が待っているのだろう?」
「あっ、はい、ジェーンです」
「色々調整したので、ラウラとなら一緒に入れる可能性がある。試してみてくれ」
「めっちゃくちゃありがたいです! ありがたいですけど、封印されている人が封印をいじくり回すのは問題しかないですね……」
「なぁに、こんなのはただの模様替えの様なものだ」
こともなげにそんなことをいうおじ様の顔は、しかしどこか自慢げだった。
やっていることはヤバすぎるものの、しかし同時にありがたいのも事実。
いつも外で推しを待たせていることに心を痛めまくっていたのだ。
もう心がサンドバック状態である。
早速迎えに行く為にいつも通り巨大ハンマーでスムーズにぶっ飛ばされて結界から一度外に出る。
もはや慣れたものである。ぶっ飛ばされ職人と呼んで欲しい。
今なら多分高橋留美子の世界でもやっていけるよ、私。
……慣れたくはなかったけどね!?




