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その214 推しに教わる日々

「あの兄様……」

「ん?」

「お、お話したいことが!」


 しばしあわあわと視線を右往左往させていた妹様だったが、素直の魔法効果なのかすぐにグレンに向き直る。


「俺も妹にお話しされたいことがあるから丁度良かったぜ」

「そうなんですか?」

「ああ、なんでも言ってくれ」


 グレンは急な妹様の登場にも慌てずに、むしろ落ち着いて彼女の頭に手を乗せる。

 イケメンにしか許されない王道アクション、頭ポンである!

 うーん、あのナチュラルなイケメン動作、私が妹様なら今頃白目をむいているだろうな。

 ……よく見ると妹様もちょっと白目をむきかけているかもしれない。が、頑張って!


「に、兄様はいつもかっこよくて強くて私の理想です!」

「滅茶苦茶褒めてくれるじゃねぇか。ありがとうな」

「私も、その、兄様と同じで、世界最強が夢です!」

「へぇ、いいじゃぇねか。お互い切磋琢磨して頂点でぶつかり合おうぜ」

「はい!」


 一見微笑ましい兄妹の会話だけれど、その内容は割と物騒だった。

 妹様は目を輝かせているけれど、それでいいのかなぁ? それ最後は戦うってことだよね!?

 というか世界最強ってそんなに目指すものかなぁ!

 強さで物事を考えるキュブラー家が特殊すぎる!


 私とお兄様では絶対に出来ない会話だと思った。

 なんか嫌だもんね、私とお兄様が熱血なことを話していたら。

 だからこそ、キュブラー兄妹の絆は私たちとは違うものを感じて、より尊く感じられるのだけれども。


 キュブラー兄妹とメーリアン兄妹は様々な要素が対極に位置しているのではないだろうか。

 陰陽で言えば多分こちらが陰で向こうが陽!


「とは言っても俺は最近、ラウラに負けたばっかなんだが」

「えっ、ら、ラウラに……!?」

「素質がすごいんだよあいつ。そうだなぁ、今度、キュブラーとメーリアンで兄弟対抗戦でもするか」

「面白そう!」

「面白そうだよな!」


 とか考えていたらあっちでもこちらの名前が出てしまった!

 しかもヤバイ対決を計画している!

 やめてやめて! お兄様が相当な苦労をしないとこっちに勝ち目がないから!

 そして多分私が死ぬからー!



 その後、妹様は心底楽しそうに愛すべき兄とお喋りを続けた。

 仲の良い光景を見ていると大変温かい気持ちにさせられる。

 そんな感想を抱いたのは私だけじゃないようで、ローザは少し涙ぐんでいるほどだった。


「上手くいって良かったね、ローザ」

「はい、ですがそれ以上に……なんと言いますか、私の魔法が役立ったことを嬉しく思えてしまって。不覚ですわ……」


 それを聞いて私はローザの涙の本当の意味に気付いた。

 『真実の魔法』を私にかけて以来、ローザはずっとそのことを気に病んでいて、魔法という行為そのものに忌避感を覚えていたのかもしれない。

 自分の魔法は誰かに迷惑をかける一方だと、そんな風に思うのは実に彼女らしい。

 けれど、こうして人の役に立つ魔法を扱うことが出来て、楽しげな妹様を見て、どこか救われた気持ちになったのだろう。


 その涙を見て私も更に涙した。

 涙には明らかに伝達する力が存在するのでこれは仕方ない。

 あくびと双璧をなす感染力があるよ! 涙には!


 誰かの役に立つことが自分を救うこともある。

 それは一人でいた頃の私では永遠に気付けなかったことだった。

 要するに私は今日も今日とて推しに教わってばかりなのだろう。


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