その212 話題の中心が話題の外に
ローザはツカツカと歩き妹様に近寄ると、ゆっくりと口を開く。
その姿は実に優雅だった。
「お初にお目にかかりますわ。私はローザ・アワーバック、元はいやしくも名家の娘などやっておりましたが、今はラウラ様に忠誠を誓っている一介のメイドですわ」
「う、うむ……うむ? め、メイドのメイド?」
「ええ、ですのである意味では妹様のメイドとも言えますわ」
「な、なるほどー!」
緊張からかやや硬く偉そうな雰囲気を見せる妹様だったが、ローザが私と絡めて挨拶したことで、その態度は少し柔らかくなる。
なるほど、まずは知り合いであることをアピールしつつ、更に接点を明確にすることで他人から知人まで持っていくことが出来るのか。
ボッチには思いもよらないテクニックに感服する。勉強になるなぁ、メモしておこう。
「ところで……私と妹様にはある共通点がありますわ」
「美人なところとか?」
「うふふ、そこは間違いないところですけれど、もう一つ」
ローザは微笑みつつ、私の方へ体と視線を向けてくる。
もう一つってなんなんだろー? 美人な上に可憐なところとかかなぁ? とか考えつつぼんやりしていたところを注視されてしまった!
びっくりしつつ視線に恐縮して身を縮こませていると、ローザは何故か深く頷いた。
そして私の全身を……フリフリに包まれた私の姿をひとしきり眺めた後に口を開く。
「可愛いラウラ様に更に可愛らしいお洋服を着せたのは妹様ですわね? はっきり言って──素晴らしいセンスをしていると言わざるを得ませんわ! 私も前々からああいった服を着せたいと思っていましたの!」
「そうだったの!?」
驚く私をよそに妹様は元気よく手をこちらに向ける。その顔は大変に自慢げだ。
「でっっっっっっっっっっしょ! そうなの! ラウラはもっと可愛く生きるべきなの!」
「可愛く生きるとは……?」
「ええ、まさしくその通りですわね」
「どの通りなのー……?」
「ですが私はもっとシンプルな衣装も似合うと思っていますわ。白ワンピースを着たラウラ様もさぞ素晴らしいことかと」
「わっかるー! 白も絶対にいいと思う!」
まるでついていけない私とは裏腹にローザと妹様は大変盛り上がっているようで、そこには完全に二人の世界が出来上がってしまっていた。
こ、これはいわゆる『共通の話題で盛り上がる』というリア充必勝パターン……!
陰キャだろうと人と話すときの基本となるであろう技術だけど、問題はその話題の中心が私ことラウラ・メーリアンなことである。
──確かにこれ以上ない共通の話題だろうけどさぁ!
私のメイドをやっているローザと、私をメイドにしている妹様の共通点は間違いなく私だし、それにどちらも私を可愛がってくれている。それは事実なのだけど。
──でも私の話題でそこまで盛り上がるものかなぁ!?
滅茶苦茶のくちゃくちゃのぐちゃぐちゃに恥ずかしいんですけど!
あまりの羞恥に途中から流石の私も声が出なくなった。
頭の中が真っ白になっちゃうー!
「個人的にはもっともっとダークでも似合うと思う。ドクロの衣裳など散りばめるのもマル」
「イブンも良い視点を持っていますわね。なるほど、メーリアン要素を強めると言うのは私にはなかった発想ですわ」
「儂は極東の伝統衣装であるキモノなどいいと思うんじゃが」
「そういうのならミコがいいと思う!」
遠巻きに話を聞いているといつの間にかにメンバーが増えていた。
何故? 何故増えてしまうの?
人が増えるたびに私の羞恥心が足し算じゃなくて掛け算で増えていくんですが?
というかイブンとナナっさんまで何をしているの!
私がキモノ着たらそれはもう呪いの人形になっちゃうからー!




