その211 素直に直す
強引に連れてこられたのか、ローザは現状を認識できずにパニックになっていた。
そういえばローザって不測の事態に弱いんだった!
いや、不測の事態に強くてもこれはパニくりそうなものだけどさ!
一体どこで何をしている時に連れてこられたのだろうか……制服だから帰り道を拉致られたのかな……。
「ここはグレンのお屋敷」
「あら、イブンもいましたのね……なんでメイド服着てますの!?」
一足先に話しかけるイブン。それを見てなんとか冷静さを取り戻しそうなローザだったが……メイド服がおかしすぎた!
「似合ってない?」
「似合いすぎるほど似合ってはいますが……あとそこのお嬢さんは何者……なんか煙が出ていません? ……そもそも何故学院長に連れてこられたのか……」
ヤバい、この場所ツッコミどころがあまりにも多すぎて、このままじゃローザがツッコミで呼吸困難になってしまう。
私がローザを守護らなくては……!
私は急いでローザに耳打ちするように現状の説明を行った。
ことがここに至るまでの経緯である。
するとローザは全てを納得したように深く頷く。
「なるほど、ありがとうございますラウラ様。得心いたしましたわ」
「えっと、話の流れからするとローザが『素直の魔法』使えるってことだよね?」
そうじゃなかったらローザはもう本当にただ無関係に誘拐された女子である。
それは流石に犯罪すぎる。いかにナナっさんの見た目がショタであろうとも!
「ええ、お察しの通り。学院長に『素直の魔法』を習っていますわ」
「全然知らなかったよ……いつのまに」
「黙っていて申し訳ありません。話す機会がなかったものでして……その、自分にかけるために習ってたんですわ」
「えっ? あ、ああ、そういうこと!」
自分にかけるために習う、なんてぱっと聞くと混乱してしまうけれど、それをローザが言っているのなら理由は察せられる。
ローザはかつて私に『真実の魔法』をかけてしまった罰として『素直の魔法』をかけられることを望んだ。
それは新学期が始まる頃には治るという話だったのだけど……きっと彼女はそれでは納得できなかったのだろう。
「『素直の魔法』をかけて貰うためにその都度学院長にご足労してもらうわけにも行きませんし、一度習ってからは自分でやっていますの」
「そ、そこまでしなくてもいいんだよ?」
「いえ、これは私が私でいるために、どうしても必要なことなのですわ。ラウラ様のご意向に逆らうようで、本当に申し訳なく──」
「ああいやいや! 勿論、私の顔色なんて窺わなくていいんだけどね!」
どうやらローザはローザなりの真剣な志を持って自分に『素直の魔法』をかけ続ける道を選んだようだ。
それなら私が口を挟むことではない。すっごく心配だけど、それでもローザのその真っすぐな瞳を見ていると、きっと大丈夫だと思うことが出来た。
「ローザは器用でな、すぐに使えるようになって儂も楽ちんじゃったよ。まあ、そもそも一度は『真実の魔法』を行使したんじゃから、そういう系統の魔法に適性があったとも言えるが」
「うっ……」
「さ、才能があるのはいいことだよ! ローザ!」
言われてみれば『真実の魔法』が使用できるのならそのプロトタイプである『素直の魔法』を使えるのはごく自然のことに思える……思えるけど、古傷が抉れちゃうからやめてあげてください!
「それでローザ、妹様に魔法をかけて欲しくて」
「はい、ラウラ様のお役にたつことが私の全てですわ」
「あ、ありがとう……あの、だけど、妹様の信頼を勝ち取らないといけないみたいで」
ちらりと私は妹様の方を見る。
突如現れたローザに対して案の定、妹様はいぶかしむ視線を向けていた。
信頼……勝ち取れるかなぁ。
「なるほど、委細承知いたしましたわ。私にお任せくださいませ」
ローザはその豊満な胸を張って、自信ありげな様子を見せる。
これは期待が持てそう……!




