その208 ほぼ使い魔
「一応男子を自称しているけれど、さておき、本題からズレてしまっている」
「あっ、そうだね! ごめん、イブン」
「なんで一応なのか滅茶苦茶気になるわ……」
イブン自身もいまいち自分の性別が分かってない感を出していた。
ホムンクルスってそういうものなのだろうか……。
「でもいいと思うわ、『素直の魔法』。魔法で解決する事柄は魔法で解決するのが一番だと兄様も言っていたし、私的には断る理由はないかも」
「『真実の魔法』と違って試してみて駄目だったらやめることも出来る。とりあえずやってみるのも悪くはない。うまくいくかは謎だけど」
とりあえず話は試す方向で固まったらしく、妹様は腕まくりをして乗り気な姿勢を示していた。
そうと決まればナナっさんのところに行かなければ!
早速学院に駆けだそうとした私だったが、それはイブンに腕を掴まれて阻止されてしまう。
「なにゆえ私の足を止めるのイブン!」
「……お姉さんは素敵だと思うし、恥じることは何もないとは思う」
「ほっ!? きゅ、急にどうしたの?」
突然べた褒めされてしまって私の情緒が揺らぎまくる。
それは大海に浮かぶ笹船も同然で、今にもイブンと言う海に溺れてしまいそうなくらいだった。
本当に急に何!?
「でも、お姉さん的にはその恰好、恥ずかしいんじゃないかな」
「えっ? ………………あっ、ゴスってたんだった!?」
すっかり忘れていたけれど、今の私は妹様に着せ替え人形にされたままなんだった!
こんなフリッフリな格好で外に出たらいい笑い物である。
なんで忘れちゃうかな私! 脳みそのキャパが1MBくらいしかないんじゃないの?
画像1枚保存するのにも苦労するレベル! 圧縮必至!
「それに基本的にあの人は呼べば来る」
「あっ、確かに」
「えっ、そんな犬みたいな人なの?」
学院長とは思えないほど軽い扱いを受けるナナっさんである。
いや、でもね、実際は学院長という職務の通りナナっさんは忙しい人なんだからね?
呼べば出てくる使い魔とかではないんですよ。
今だって肯定しちゃったけれど、現れるかは微妙なところだと私は思うよ! うん!
むしろここは学院長の威厳を見せるために来ないで欲しいくらいだ。
そう、学院長は呼べば来るような軽い人ではない! はず!
呼ぶけどね? 呼ぶけど来ないと思うよ! うん! 来ない来ない!
「よし……じゃあ呼びますよ……」
「なんでちょっと緊張しているの?」
「威厳が保てるかどうかの瀬戸際だからです!」
「私には分からない葛藤があるのね……」
「難儀なやつじゃなぁ」
妹様とナナっさんの戸惑いの声は最もだけど、私としてはナナっさんの多彩な一面が見たいのである。
よし、呼ぶぞ! 来ないと思うけど呼ぶぞぉ──
「──いや、もういるじゃないですか!?」
「当たり前じゃろ、儂じゃぞ」
呼ぶまでもなく当たり前のようにナナっさんは妹様の横に突っ立っていた。
二人並んだ姿は仲の良い子供同士と言った感じだ。
ほ、本当にいつからいたんだろう……ナナっさんの神出鬼没さにも磨きがかかっている。
「ラウラウが困っていれば何処からでも現れるのが儂じゃよ」
「ありがたくはありますが、恐れ多くもあります」
「むしろ恐れしかない」
「あわ……あわわ……」
慣れている私達でも引き気味な状況だというのに、衝撃的な初対面となってしまった妹様は混乱のあまり口をパクパク開いて声が出ない様子だった。
そうだよね! ホラーすぎるよね!
でも怖い人ではないから! 多分! 部分的には!
「おそらくこの人、お姉さんが着せ替え人形にされていた時にはもういたと思う」
「ぎくっ……!」
「えっ、そうなんですか? 今、露骨にぎくりとしたような声を上げましたが」




