その206 パンチシャークる
突然の私の興奮に妹様は普通に引き気味だった。
ごめんなさいとしか言えない!
申し訳ない気持ちでいっぱいだー!
「いえ、あの、需要があるんです!」
「良く分からないけど、えっと、な、慰めてくれてありがとう」
「殴サメ?」
「でもいいの、兄様の妹になれて私は幸せだから」
パンチシャークではなく完全に本能でのみ叫んでしまった言葉だったけれど妹様は優しかった。
そしてそのしみじみとした言葉には愛があって、本当に妹様はグレンが大好きなのだと伝わって来る。
まあ、グレンだもんね。その妹になればこれくらいは当然の感想だと私は思う。
気持ちが滅茶苦茶分かる。なにせ私も悪役令嬢とはいえお兄様の妹になれて嬉しすぎて熱を出したほどだったから。
どうやら私と妹様は妹という面で少し似ているらしい。
「じゃあラウラと妹様はチーム妹同盟ということで」
「何がじゃあなのイブン!?」
「チーム妹妹被りとどっちがいい?」
「その二択なら前者ですけども……!」
「マイマイカブリも可愛いと思うなぁ」
「乗り気ですね!?」
こうして私と妹様は謎の同盟を組まされてしまった。
イブンなりに気を使った結果なのかもしれないけれど、チームマイマイカブリ(カタツムリを捕食する虫のこと)はちょっと……。
「とにかくグレンも仲良くしたいと思っている以上、既に二人は仲が良くなるための道が舗装されていると言ってよい。悩むことはなくただ真っすぐに会話すればそれでいい」
イブンのど真ん中剛速球火の玉ストレート165キロに妹様は後退りをする。
とにかく会話をすればいい。それは間違いのない真理なのだけど、それが出来るならもうやってるって話でもある。
それが出来ないから困っているのです!
「そ、それはそうなんだろうけど……」
「イブン、純情な妹にはそういうのが難しいものなんですよ」
「どうして?」
「どうしても!」
「なら仕方ない……」
強引にイブンを説得しつつ、私は照れた顔の妹様に向き直る。
「妹様、つまり面と向かって会話する勇気が欲しいと言うことですね」
「た、多分そう。部分的にそう」
妹様のアキネイターみたいな返答を聞きながら私は考える。
グレンは世界一優しい男子なので兄としても恐らくドロドロに優しいだろう。
つまり妹様が勇気を出せばこんなのは簡単に解決する問題ではある。
あるのだけど、それが出来ないのは私が一番良く分かる。
まず言葉が出ないんだよね。
それでは会話も何もあった物じゃない。
今の私が多少なりとも人と会話出来るのは魔法の効果のおかげで、これは功罪ある『真実の魔法』の良い面が出ている。
一度会話してしまえばあとは魔法が無くても慣れてはくるし、この魔法には無口矯正魔法という側面があるのかもしれない。
では妹様に『真実の魔法』をかければいいのかと言うとそれは全然駄目なんだけども。
もっと『真実の魔法』をお優しくしたような魔法があればなぁ……。
あればなぁ……?
いやあるな……?
「あるじゃん! いるじゃん!」」
「えっ、なになに? アルジャン・イルジャンさん?」
「そんな愉快そうな名前の人ではなくて、えっと、私、ちょっとうちの学院の学院長のところに行ってきます」
「なんで!? どうしてそんな結論になっちゃたの!?」
話をすっ飛ばし過ぎて大混乱の妹様だった。
ナナっさんは古今無双の超有名人のため、そんな人のところに急に行くなんて言われたら動揺は止む無しである。




