その200 認識阻害は人を疎外する
「まあ~要するにエクシュは大丈夫よ~」
「ならいいのですが……」
最初から信頼していたとはいえ、こうして明言されると安心するものがあった。
心配性なご主人様で申し訳ねぇ!
「それで~ドラゴンについてベッドの下から聞いてたんだけど~」
「完全に盗み聞きなのは置いておいて、何か気付くところがありましたか?」
「まず~ドラゴンは水系の存在だから私はそこそこ近しいはずなのよね~、よく知らんけれど~」
「そうなんですか? 火系のイメージが強いですが」
基本的に水系の存在の人は火を吹かないしマグマにも住まないのであまりドラゴンに水っぽさのイメージはない。
だからと言って水を吹かれても困るけれど……でも、東洋的な龍は確かに水気を感じる。
そういえばトラコさんは火を吹かないって言ってたし、そっち系なのかな?
「ふざけた名前を名乗っているけれど~、それはジェーンちゃんに提案されたからだけではないと思うわ~」
「すいません……ふざけ過ぎた名前を付けてしまいすいません……私もジェーン・メニンガーではなくもっと変なのを名乗ります……アホロートル・アホ子とかそんな感じで……」
「落ち着いてジェーン! アホロートルはサンショウウオの子供って意味だから!」
「落ち着くところそれでいいの~?」
可愛くも皮肉の混じったあだ名をつけるのが得意なジェーンだった。
確かにジェーンの可愛さはウーパールーパーを打ち破るほどだけども!
「名前は重要な意味を持ちがちだから隠しているんだと思うわ~。私も実は秘密にしてるし~」
「ニムエさん本名じゃないんですか!?」
「他にもヴィヴィアンとかニミュエとかエイレンとかニヴィアンとかニマーヌとかニニアンとかニニューとか色々あるわよ~」
「多いです!」
「まあだから基本は湖の乙女って呼ばれているわけ~」
なるほど湖の乙女と言うのは本名が知られていないという意味合いもあるのか。
しかも本名を隠すにもただ偽称するのではなく、多くの名前を持つことで分からなくするという方法もあるのは目から鱗だった。
木を隠すには森の中というやつですね。
これだけあるともう本当の名前なんてない気がしてくるし、実に有効な方法だと思った。
ちなみに私はニニューがお気に入りです。響きが可愛すぎる。
「ヴィヴィアンは聞いたことがあります。騎士の守護精霊だとか」
「へー、ニムエさん守護精霊とかしてたんだ」
「それは別の私ね~」
「私に別とかあるんですか!?」
聞けば聞くほど謎が深まるニムエさんである。
なんかこう……いっぱいいる人なのかな?
いっぱいいる人ってなに??????
「まあ~、それは置いておいて~」
「置いておける情報ではなかったのですが……」
「ドラゴンの認識阻害について話しておきたいわ~」
「あっ! それは聞きたいです! 置いておきましょう!」
「素直な貴女が好きよ~」
認識阻害については本当に参っていたので、それはもういくらでも素直になろうというものだった。
これが解けない限り、協力してもらうのも一苦労だからね。
「まず~ジェーンちゃんには効いてないわよね~、認識阻害~」
「あっ、そういえば! 本当だ!?」
ものすごーく自然に話しているので気付けなかったけれど、確かにジェーンは普通にトラコさんをドラゴンと認識出来ている!
思わず視線をジェーンに向けると、彼女は少し恥ずかしそうにもぞもぞと左右に動く。
可愛いの全自動配布機能がついているのかな?
「あの、多分、旧友だからだと思います」
「そうね~、それもあるし~、そもそもジェーンちゃんがそう言うのに耐性があるのだと思うわ~」
「さすが大天才ジェーン!」
「いえいえ……」
謙遜するジェーンだけど、これは本当に心強い。
抱きしめたくなるほど嬉しい気持ちでいっぱいだけど、流石に迷惑だろうから自重しておいた。
しかしちょっとした心情が口から漏れてしまうのは避けられないわけで。
「代わりにニムエさんを抱きしめようかな」
結果としていきなり幼女を抱きしめようとする変態が誕生してしまった。
しかし偽りのない本音である。
……汚泥のような本音だな! ラウラ・メーリアン!
「何の代わりに抱きしめるつもりかしらないけれど~、抱き枕代わりならいいわよ~」
「いいんですか!?」
「よくないですよ! ラウラ様、必要なら代わりに私がしますので……」
代わりの代わりで一周回って元に戻ってしまった!




