その197 魔王で覇王で天使
とてもじゃないけどジェーンに魔王のイメージはない。
むしろその逆、勇者か天使のイメージが強いくらいだ。
「大天使の間違いではなく?」
「天使の様な笑顔でやることが覇王、それがジェーンです」
「覇王! 魔王で覇王!?」
マオとハオ、二人はプリキュア!?
そもそも天使な顔な覇王を私、見たことないや!
「違うのですか?」
「全然違いますよ! ジェーンは優しくて愛らしくて笑顔が素敵でいつも誰かのことを気遣っていて、友達思いで大切なものの為なら決して曲がらない強固な意思がある素敵なヒロインなんです! その上、かっこいい顔も見せてくれるヒーローでもあります! それ即ち最強! ジェーン is Wonderful! Amazing! Excellent! Fantastic! Awesome! Superb! Lovely!」
要するに全部素晴らしいってこと!
ジェーンは魔王なんかじゃない! 王の器はあるけどね!
「……どうやら私の知っている彼女と大分違うようですね。もしや別人と入れ替わっているのでは?」
「ホラーなこと言うのはやめてください!」
「冗談です。メイドジョーク」
「唐突にメイドジョークを挟まれると困惑します……!」
可愛らしく舌を出すトラコさんの姿に肝を冷やす私。
とにかく、ジェーンに対する認識が大きくすれ違っているらしい。
何故なのだろう……疑問に思いつつ色々と考えて見ると、そういえばと思い出す。
そうだ、ジェーンって子供の頃、やんちゃなんだった。
「えっと、ジェーンって子供の頃、そんなに元気だったんですか?」
「そうですね、ドラゴンが恐れるほど元気でした」
「ドラゴンが恐れるほど……!」
「実は火とか吹けないんですけど、子供の頃の彼女は普通に火を吹いてましたよ」
「何故!?」
「何故でしょうね……空も飛べましたし、怪力でしたし、無敵でしたし、瞬間移動とかも出来ましたし、なんか羽も生やせましたし、とにかく何でもありな子だったんです」
「そ、そこまでですか……!」
子供の頃のジェーンは私の想像以上にやんちゃだったらしい。
いや、これはもうやんちゃ通り越して無茶苦茶だ!
「とにかく自由な子で、あの田舎町でいつも楽しいものを探して爆走してました。本当にちょっと爆発しながら走ってたくらいです。元気ハツラツというより元気大爆発と言った感じで、それに私もよく巻き込まれていたんですよ」
「それはそれは、えっと、その、た、大変でしたね?」
「大変でした。本当に大変でした。ですが──大変、楽しくもありました」
トラコさんは昔を懐かしむように、目隠しされたままに上を眺める。
その目には一体何が見えているのだろう。
「私が女装を志したのも、もしかするとあの鮮烈な光景が、何よりも輝いていた彼女が、今もこの目に焼き付いているからなのかもしれません」
「良かった……悪い思い出ではないようで」
「未だに悪夢に見ることはありますよ?」
「ははは、メイドジョークですね」
「………………」
「メイドジョークですよね!?」
青ざめるトラコさんの表情は真に迫っていて、とてもジョークとは思えないけれど、ここはジョークってことにしておこう……!
思わぬ流れでジェーンの過去が暴かれてしまったものの、むしろ昔やんちゃで今いい子というのは私の性癖に合っている。萌えポイント上昇だった。
いや、私、性癖で物事を考え過ぎでは?
脳が性癖で出来ているのか?
「ところで、もう相当な長風呂ですが大丈夫ですか?」
「ふぇ? ああ、らいじょうぶれすよ」
「明らかに大丈夫ではないですね……」
そんなわけでついに限界になり、お風呂から上がることになった。
うう、私の長風呂スキル、意外と雑魚だった……。




