その188 余裕御撫余裕、安堵余裕
「どうしたのイブン?」
「先ほどからトラコに色々と聞いていたのだけど、なんか変だ」
「変?」
いや、トラコさんは最初からずっと何もかも変なのだけど?
そんな「空が青いです」みたいなこと言われても反応に困っちゃうよ!
「心が読めない」
「えっ、そうなの? それは変だね」
「そしてこういうのは初めてじゃない」
「経験済みなんだ……」
「主に種族が違うと発生しがち。例えばあのちっこい湖の乙女なんかはかなり読みにくい」
なるほど、イブンは人間の心を読んで人間を学習する存在。そもそも人間以外の心を読むことが想定されていないんだ。
トラコさんは見ての通りドラゴンなので、心を読めないのも当然と言えば当然……いや、じゃあドラゴンだって理解してよ!
してよ!!!!!!!
「つまりトラコさんがドラゴンってことなんだよ! イブン!」
「異種族の可能性は高い。でもドラゴンじゃない」
「くっ……もはや言葉での説得は不可能か……」
これだけの情報が得られてもなおイブンはトラコさん=ドラゴンに理解を示さない。
もはや私の方が間違っている気さえしてくるから、大変に不安である。
結構孤独な戦いだよこれは……!
「ねぇ、そこのイブンとかいうメイド、なかなか強かったけど何者なの?」
「あっ、イブンはホムンクルスなんです」
「ホム……なに?」
「人間が作った人間という意味」
「人間が人間を作るのは当然でしょ?」
「生命体の機能として子孫を残すという意味ではなく、例外的な方法で生み出すのが──」
イブンと話す妹様をよそに私はトラコさんの方を窺う。
こちらの視線に気が付くとトラコさんは優しく微笑んでくる。その姿には余裕があった。というか余裕しかなかった。余裕オブ余裕アンド余裕……これはもう安堵余裕とさえ言える。
改めてトラコさんを見てみると彼女の首には太めのチョーカーが装着されていた。
特に気にしていなかったけれど、あれはまさか逆鱗隠しでは。
逆鱗は基本的に首にあるものだと聞いている。露骨に首を隠すように設置されたそれは如何にも怪しい。
そんなことを考えつつ、その日は妹様が昼寝するまで遊び倒した。
何も破壊されなかったので恐らく初日の業務としては成功だったのだと思う。
果たして破壊が基準で大丈夫なのか分からないけれど。
正直、遊んでいるだけなので、これであっているのか分からない。
もしかすると遊んでいるのではなく、遊ばれている可能性すらあるし……。
しかも私は子供相手に子供扱いされており、妹様から妹扱いされているレベルだった。
「よしよし、ラウラは可愛いね。膝の上に置いておきたい」
とまで言われる始末である。
もはや猫だ。
ただ私は幼女に上から来られるのが大好きな人間なので、そういった扱いも苦にならない。
むしろウエルカム! どんと来い!
幼女の為なら幼女にもなれる! なりたい!
そんなわけでご褒美すぎる仕事なのでした。
お給料を貰うのが申し訳なくなるレベル!
★
「基本的に妹様は敵対心の塊なのですが、ラウラさんは無害すぎてそんな敵対心も砕けてしまうようですね」
「まあ、はい、害だけはない生命体です……」
果たして誇るべきことなのか迷いつつそう答える。
お仕事は妹様の遊び相手だけじゃなくお掃除もある。
妹様が寝てからがむしろ本番で、私とイブンはトラコさんの指示に従い、屋敷の廊下に備え付けられた銅像を磨き続けていた。
「害がないというより、お姉さんを警戒することが馬鹿らしく感じてくるのだと思う」
「大丈夫? 暗に私のことを馬鹿って言ってない? 否定は出来ないけど!」」
「お姉さんの賢さは一番良く分かっているよ」
「いや、それはむしろ否定したくなるけどね?」
と言いつつも私の視線はチラチラとトラコさんの首元に移る。
真っ白で雪の様な首なのだけど、やはりそこにあるチョーカーが気になる。
そして私はそこまで気になることを隠し通せない。
掃除と同時進行していたこともあって、つい願望を口にしてしまった。
「一緒にお風呂に入れば一発で分かるのになぁ」
「はい?」
「あっ、す、すいません! ド変態みたいなことを言ってしまって!」
ドドドドドドド変態発言を口走ってしまった!
流石のトラコさんも怪訝そうな表情で私を見ている。
ぐへへ、一緒にお風呂に入れば一発だぜ!なんて言ってくる奴初めてみただろうな……私も初めて見た!
そんな奴捕まった方がいい!
「いいですよ」
ひたすら謝ろうと頭を下げたところで、落ち着いた声が聞こえてくる。
今度は私が聞き返す番だった。
「は、はい?」
15,000ポイントに到達してました。多すぎる……無量大数かな?
とんでもない数字に感謝感謝です(ブックマーク減って14,998とかになってたら笑って上げてください)
ゆるゆると続けていきますのでこれからもゆるゆると読んでいただけると幸いです




