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その185 無敵で無攻


 『信じる魔法』。

 語感が若干『真実の魔法』に似ている気がする。

 しかしそれ以外はまるで心当たりのない魔法だった。

 

「簡単に言うと幼子特有の全能感を具現化したような魔法です」

「全然意味が分かりません……」

「まあ、見てれば分かりますよ」


 再び妹様の方へ視線を戻す。

 彼女は両手を前で組み、大変に偉そうに、そして誇らしげにふんぞり返っていた。

 

「わーはっははごっほごっほ……つ、土煙を立てすぎだ!」


 先ほど無敵な姿を見せたと言うのに、一転して土煙で咳き込む妹様。

 強いのか弱いのかよく分からない!


「『水底の輝きは永久無限、果て無き姿に泣き号べ、ウォータンマリア』」

「は、話している途中に魔法使わないでごぼぼぼぼ」

「イブン!? 容赦なさ過ぎるよ!」


 自信満々に鼻を膨らませていた妹様に向かってイブンが水属性の魔法をぶちかます!

 空中から出現した水の柱の中に妹様は閉じ込められてしまった。

 一体誰からコピーした魔法なのか分からないが、土の魔法も水の魔法も扱えるのはイブンくらいにしか出来ないレアなことである。

 そして、やはりと言うか妹様も水の中で呼吸が出来るわけでもないようで苦しそうにしていた。


 そうか、咳き込んだのを見て呼吸出来なくさせれば勝てると判断したのか。

 ……いや、判断が冷徹すぎる! そこまで容赦がないものですか!?


「ごぼぼ、ぼご、ぼごごご!」

「ふん、この程度の水なんだ! 私にとってこんなもの水ではなくミミズよ! と言っています」

「本当に言ってますかそんなこと!?」

「後半はジョークです」

「水よりミミズに囲まれた方が嫌すぎるから想像させないでください!」


 とにかく妹様はまだ戦意を失っていないらしい。

 しかし水の中に閉じ込められた状態で何が出来ると言うのだろう。

 そう思っていると、水の中で異変が起きる。


 急速に泡が噴き出し始めたのだ。

 まるで沸騰しているかのように。

 いや、実際あれは沸騰しているのかもしれない。

 そう妹様の温度によって。


 自身の感情がそのまま体表の現象となって現れる妹様の特性、それが水を蒸発させ始めていた。

 水魔法は水を操るという都合上、そこに激しい変化が起こると崩れてしまう弱点がある。

 なんの支えもなく柱の形をしているのは魔力故であり、その繊細な魔力が揺らげば当然水柱も壊れるという理屈だ。

 それを温度で壊しにかかるのは聞いたことがない対処法だけれど、効果は間違いがないもので水の柱は崩れていき、やがて津波の様に周囲に水が広がっていく。


「すーはーすーはー……そっちばっかりせめてずる過ぎる! こっちからも攻めるから!」

「いや、先手を譲ったのは妹様では」

「うるさーい! 行くぞ!」


 両手をぐるぐると回しながらイブンを突撃していく妹様。

 ここまでは圧倒的な防御性能を見せているけれど、その攻撃性能や如何に。


「おりゃーーーーーーー!」


 ポコポコポコポコと軽い音が周囲に響く。

 なんと妹様の攻撃手段は両手ぐるぐるパンチだった。

 子供でも意外とやらないやつ!

 

 ただ油断してはならない。魔法戦においては何でもなさそうな攻撃がとんでもない火力を秘めていることもあるからだ。

 ああ見えてもダメージを蓄積させる毒の様な攻撃の可能性はある!

 そう思ってみているがイブンの顔は完全な無表情で、なんのダメージも受けているようには見えない。


「妹様の攻撃力はあんなものです」

「あっ、普通にお子様パンチなんですね……」


 見た目通りのものでしかないらしい。

 む、無敵とは?


「想像力の問題なんです。自分が無敵だと言う想像は出来るのですが、誰かが傷つく想像は出来ない……『信じる魔法』とは要するに子供の想像を多大な魔力で具現化する魔法です。妹様は今までの人生で一度も怪我をしたことが無い為、怪我をしない想像は出来るのですが、逆に誰かを傷つけたことも人生で一度も無い為、その想像は出来ないのです」

「こ、子供の想像を具現化する魔法……」


 つまり妹様は自分が無敵だと信じているから無敵だけれど、水の中で呼吸できた経験もないし、誰かを吹っ飛ばした経験もないから、その辺への対応は出来ないということ……。

 とんでもない魔法だ。間違いなく強い魔法だ。けれど、なんというか、子供の想像力の限界と言うのも見せつけられた感がある。

 

「あれ、という事はもしやこの決闘決着は……?」

「つきません。どちらの攻撃も通りませんので」

「しゅ、終了! 終了でーす!」


 超不毛な戦いであることが分かったので私は声を上げて二人の決闘を中止しに行く。

 でも、まあ、互いに無傷なのは本当に良かったです、まる。


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