その183 延々と炎々
「い、威厳ある姿を見せつけたかったのに……! 全部そこのメイドのせいだ!」
「すいませんすいません!」
燃え上がる妹様に私はペコペコと頭を下げる。
こちらのミスに巻き込んでしまった形なので、謝るほかない!
ぽねがいしてしまってすいません!
「お前の記憶も全部燃やしてやる!」
「可能か不可能かは置いておいて、それだけはご勘弁を……!」
「可能だし可燃に決まっている!」
妹様は私の記憶を燃やす気満々だった。
燃え上がるような思い出とは言いますけども!
ひたすら水飲み鳥の様に頭を下げ続ける私を守る為、間にはトラコさんが立ってくれているけれど、炎の勢いが収まる様子はない。
私を焚火にくべないと収まりつかない状況ですか!?
「妹様さん、威厳ある姿が崩れたのはラウラのせいじゃない」
「妹様さん!? い、イブン、それは敬称足りえてないと思うよ!」
横から……いや、私の前に立って炎に向き合うようにイブンはとんでもない敬称を言う。
妹様さんって、妹様は名前じゃないからね!?
「大事なのは噛んだ後も余裕を見せることだったはず。『おっと、噛んでしまったか。そこのメイドにしてやられたな。はっはっは』くらい言っておけば威厳も尊厳も保たれたと思う」
「ぐっ……」
ド正論に思わずうめき声を上げる妹様。
私を助けるために言ってくれているとは思うのだけど、それは火に油というものではないかな……。
気持ちは本当に嬉しいのだけれども……!
「ふん……今回のメイド共はなかなか反抗的なようだが……いいだろう! 私の力を見せつけてやる!」
イブンの言葉を聞いて怒りの矛先を変えた妹様は、小さい歩幅でズンズンとガゼボから移動し、広い場所まで出る。
周囲の建築物が燃える危険性は減ったのでそこは安心だ。
しかし、力を見せつけるとは……?
「そこの銀色メイド! それなりに強そうなオーラを出しているではないか。私が相手をしてやる! 戦いの時間だー!」
「まさかのバトル展開!?」
失った尊厳は力で取り戻そうという考えらしく、妹様はかかってこいと言わんばかりに両手を広げている。
思考回路が完全に野生動物である。
しかし、イブンの強さを見抜ける目は素晴らしい。怒りっぽいところ以外は幼子とは思えないほど聡明だ。
「はーやーくーきーてー!」
聡明なのだけど、ああやって地団駄を踏む妹様の姿はやはり幼い。
なんというか、とってもアンバランスな子である。
「売られた喧嘩は全て買って見せるし、勝ってみせる」
「イブン、乗り気すぎるよ!」
妹様だけでなくイブンも戦う気満々で、ふんすふんすと鼻息を荒くしている。
この子、ノリが良すぎるから……!
「そもそも究極を目指すホムンクルスとしてバトルは望むところ。そうやってたくさんの魔法を収集するのも役目の一つ」
「それはそうかもだけど……」
「ただ、あの子の魔法はコピーできないかもしれない」
「えっ? どうして?」
「……とりあえず行ってくる」
疑問には答えずにイブンは妹様の元へと向かう。
私としては心配で心臓が早鐘を打っているのだけど……これ、どちらの心配をするべきなのだろう?
イブンは反則的なまでの強さを誇り、グレンに衝撃を与えるほどの強さを誇るが、妹様の強さはまだ未知数である。
年齢を考えれば妹様の心配をするべきだとも思うけど、でも、イブンも実は年齢一桁代だったりするし……。
「まあ、大丈夫ですよ」
横から落ち着き払ってそう呟くのはトラコさん。
問題だらけのこの状況で、何も問題はないと言わんばかりだ。
「だ、大丈夫なんですか?」
「ええ、少なくとも妹様が傷つくことはありませんから」
一体何を根拠に言っているのかは分からないけれど、トラコさんは妹様の何かに確固たる自信を持っているようだった。
妹様、どんな魔法で戦うのだろう……。




