その178 どう見てもドラゴン
キュブラー家の屋敷は学院にほど近い場所に存在しており、徒歩圏内の職場となっている。
職場は近い方が絶対に良い! それを実感させられる好立地だ。
そんなアクセス◎な屋敷の佇まいは非常に荘厳としており、歴史ある家としての風格が感じられる。
その美しいキュブラー家の屋敷から煙が上がっていた。
えっ、火事スタート?
そんなことある!?
「ああ、あれは火事じゃなくて妹の頭から出てるだけだから安心しろ」
「安心できないよぉ!」
「妹さん発火してるの?」
「どちらかと言うとカッカしてるな」
どうやらもうすでにお嬢様はお怒りでいらっしゃるらしい。
いやいやいや、怒っているときに頭から煙出すのは漫画の住人だけなのよ。
逆に見たいけれどね? ぷんすか煙出している人の姿は!
「家に入る前に目的の確認だけはしておこうぜ」
「ドラゴンを探す。そして食す」
「食さないで! 探したらね、探したらえっと……か、考えてなかった!」
ドラゴンの発見を最優先に考え過ぎて、見つけた後の行動をまるで考えていない私だった。
は、始まりはタバサさんのドラゴンが次の世界の滅び候補だと言う話からなので、普通に考えれば討伐が求められる場面ではある。
ただし、おじ様の例があるように話し合いが全く通じない相手……というわけでもないとは思う。
おじ様が特殊過ぎるだけかもしれないけれど……。
「と、とりあえずは話し合いする方向で!」
「まあ、そうなるだろうな。あと、ドラゴンを探してることは俺から家に伝えてあるんで、自由にやってくれ」
「は、はいぃ!? どうして伝えちゃったの!?」
「いや、お前嘘付けないだろ」
「そうだったー!」
私のせいでコソコソとした行動は不可能になっている!
そうだよね! そりゃ堂々とやるしかないよね!
申し訳なさすぎる……うるさい口で本当にごめんなさい!
「あんまり本気にもされてなかったけどな」
「あっ、いや、まあ、そうだよね」
ドラゴン狩りを祖とする一族の屋敷にドラゴンがいるなんて、何ともバカバカしい話だ。
私もまだその可能性があるくらいしか思っておらず、駄目だったらその時はその時だと思っているくらいなので、他人から見たら本気にする要素など本当に零だろう。
けれど、可能性がある以上、本当は零ではないのだ。
まあ信じられないくらいが行動しやすくて今回は良いと思う。
割と自由にやれそうだ。
「鼻を明かすつもりで頑張ろう」
「その意気だ、イブン! 俺もちょくちょく見に来るから、頑張ってくれよな」
「グレンは一緒に来てくれないの?」
イブンがこてんと首を横に倒し尋ねると、グレンは思いっきり視線をそらした。
「ついてやりたいのはやまやまなんだが、その余裕がなくてな……」
「おバカなの?」
「こらイブン! 直接的な言動は駄目!」
「フォローになってねぇぞ!」
ジェーンと同様の理由でなかなか暇を開けられないグレンなので、あまり頼りにし過ぎるわけにもいかない。
今回の任務は私とイブンとで全力を尽くす他ないのだった。
かつてない程に不安が残るコンビだけれど、が、頑張ろう!
「駄目だったらすぐに辞めればいいから、気楽にな」
「ありがとうグレン、妹さんの為にも頑張るね!」
「妹については、なんだ、確かにお前なら仲良くなれるんじゃないかと思っている、思っているんだが……マジでヤバイ奴だから、自分第一で行動しろよ」
「う、うん、分かった」
ここまで念押しされる妹さんとはどんな人なのだろうか。
恐怖半分、好奇心半分で私の心はドキドキと高鳴る。
そうしてグレンが呼び鈴を鳴らすと、私の心臓もよりいっそう鳴り響いた。
ついにグレンの家に入れちゃうー!
推しの家に入るのなんて、オタクの夢でしょ。そういう商売って出来そうな気さえする。推しの家をモデルハウスで再現して訪問みたいな……アリだな。
アホなことを考える私を尻目に、涼しげなその音を聞いて屋敷の中から現れたのは……金髪のメイドさんだった。
私の大好物のメイドさんだけれど、その時ばかりは純粋にメイドサンダー!とは喜べなかった。
何故なら──そのメイドさんに立派な角と尻尾が生えていたからだ。
「いや、絶対にドラゴンじゃん!!!!!!!!!!」




