その171 愛の人とは?
「いいのよ~、見た目が人っぽいだけで別に人じゃないし~」
「それはそうかもしれませんが……」
「あとああいう所で眠るのって子供の憧れじゃない~?」
「乙女が子供なのは見た目だけだろうに」
厳しいツッコミをするのは私の腰に携えた喋る剣、えくしゅかりばーである。通称エクシュ。
とんでもなくふざけたお名前だけれど、これは私の命名ではなく目の前の子供、夢世界を生きる乙女、ニムエさんの命名だ。
ただし、その命名がなされた理由は間違いなく落書きの様な見た目のせいで、それは私の責任だったりする……。
要するに私が悪いです! すいません!
「い~ま~は~、お~こ~さ~ま~な~の~!!!!!!」
「アホなことを言っていないで、主が新たに得た情報について議論するべきではないか」
「も~、クソ真面目なんだから~」
ニムエさんとエクシュは旧知の仲らしく、その会話には気が置けない様子が感じられる。
幼女と剣のカップリング……アリだな。
マジでアリだな。
見た目落書きっぽいのも子供っぽい子が持っていた方が相性良いしね……。
「主、今一度、タバサについて乙女に話してくれ」
「あっ、う、うん! 情報は重ねて共有しないとだよね! 何度も確認することは大事大事!」
動揺しつつ、私はタバサさんと会ったことをニムエさんとジェーンに話す。
一度、ニムエさんに話していたのだけれど、その時は「ドラゴン~~~~~?」という怪訝な表情をされてしまった。
そして初耳のジェーンにとっては驚きの話だったらしく、思わず前のめりになっている。
可愛い。
「あ、あの、あの、あのあのあの!」
「どうしたのジェーン!?」
単に驚いただけではなかったらしく、ジェーンはもはや前のめりではなくもはや前につんのめりそうになりながら話を続ける。
「わ、わ、わ、私も会いました!」
「えっ、そうなんだ! 静かそうな人だったよね」
「えっ……? いや、その、とんでもなく多弁な人でしたよ……?」
「えっ!?」
「えっ……」
互いの認識が滅茶苦茶すれ違っていた。
あれ……私の前に現れたタバサさんはクールな女性だったんだけどな……。
すっごい知的そうな雰囲気で私と同じ顔なのに、その表情には私とは比べ物にならない落ち着きが感じられたほどだった。
「あの、愛の人ですよね」
「愛の人って何!?」
愛の人って単語が謎過ぎるんだけど!?
「なんかこう……『愛なくして人間の発展はない!』『愛が全ての源!』『要するに愛!』みたいなことを高らかに言っていませんでした?」
「そんなヤバい人に会った記憶はないかな……!」
逃げるよそんな人にあったら!
愛がその人を示す形容詞になるってどんな人なの……?
あんまりいないよ? そんな愛を連呼する人は。
「ふ~ん? どうやら二面性のある女みたいね~」
「或いは単に興奮した姿をジェーンが見たというだけか」
「ええっと、と、とにかく、そのタバサさんがドラゴンがヤバいっぽいって言ってたんです!」
タバサさんという存在に不思議さが増してしまったけれど、本題はそっちではなくこっちだ。
次の世界の巨悪候補であるらしいドラゴンについて、ニムエさんの意見を聞きたい。
「ドラゴンねぇ~……」
「なんだか乗り気じゃないですね」
ニムエさんは何処か移り気な様子でいじいじと手遊びをしている。
対世界救世に対して力を入れているニムエさんだと言うのに、この件に関しては何故か及び腰になっていた。
世界の為なら自分の住む世界が滅んでもいい人なのに……。
「いやねぇ~、ドラゴンって何~?」




