番外編4の2 キスには期するところあり
もしかしてジョセフ様もこれくらい喋れるのでしょうか。
見てみたい気はします。
いや、滅茶苦茶見たいです。
「あの、つまり、愛が力の源なんですね」
「良く分かっているじゃない。そういう事よね」
そういう事らしい。
タバサ様が愛絶対主義者であることは分かったけれど、それが『真実の魔法』となんの関連が……?
「それで『真実の魔法』の解除方法は……」
「ええ、そのことよね。ちゃんと話すから安心して……とは言ってもかなり昔のことだから私の記憶も怪しいのだけど。ええっと、当時はまだ研究段階で確固たる自信があったわけじゃないのだけど、愛の要素を絡めれば魔法の強化に繋がる可能性は高いと若い頃の私も思っていたのよね。それで解除方法にだけでも愛を絡めようと考えて、兄の研究に手を貸したのだと記憶しているわ」
「か、解除方法に愛の要素を……」
言葉だけ聞くと意味不明すぎて面食らってしまう。
愛が物質みたいに語られているのがシュールすぎます!
そのうち『a²+b²=c²』のaは愛なのよ? 愛二乗ね! とか言い出しそうです。
「けれど、これ以降解除方法に愛を適用することはなかったわ。理由は容易に解除出来てしまうから。とはいえ『真実の魔法』は運用タイミングが相手を捕えている時なので、あまり問題にはならなかったのだけど。そもそも持続性が必要な魔法じゃなかったのよ。別に短期で構わない。それなのにこれほど『真実の魔法』が長期的な魔法になってしまった理由は、解除方法に愛を加えてしまった為なのかもしれないわ。もしくは元となった『素直の魔法』が長期運用を目的にされていたせいかも……それともかけられた存在の魔力に関連が……」
「あ、あの! 結論からお願いします!」
ブツブツと何事かを呟き続けるタバサ様を私は急いで止めます。
このままタバサ様に自由にお喋りさせてしまうと、先ほどのように止まらなくなってしまうかもしれません。
そうなるともうこちらの話なんて聞いてくれなくなるので、早く話を先に進めなくては!
「ああ、そうね。かなりテンプレなものよ」
「テンプレですか」
「よくあるでしょ? 王子のキスとかで解けるやつ。あれよあれ」
「えっ、王子がキスすればいいんですか!?」
そんなロマンチック全振りみたいな解除方法あり得るの!?
今までずっと追い求めていた答えが、あまりにも不確かで、あまりにも夢色で、あまりにも愛に満ちた方法で驚愕せずにはいられません。
き、キスで解除なんて、思いついても普通設定しませんよ。
「いえ、別に王子でなくてもいいわ。王子と言うのはあくまで比喩であり、大事なのは愛よね。互いに愛し合っている状態でキスすれば解除されるわ」
「い、いくら何でもロマンチックすぎます……! もっと合理的にできなかったのですか!?」
「我ながらちょっとやり過ぎているけれど、でも、ただのキスだと愛が足りない気がして」
「愛で物事を判断し過ぎです!」
な、なるほど、確かに愛のある解除方法だ。
これ以上愛な解除方法はむしろ存在しないだろう。
でも、そこで愛必要ですか!?
「愛は必須よ」
「心を読んだようなことを言わないでください! と言うか、こ、この方法は問題があります」
そう最大の問題は……この方法はラウラ様には難しすぎるという事。
あの人の愛は既存の愛と意味合いがまるで違う。
むしろ普通に愛し合うことは忌避している感じすらある。自分という存在が愛する人と関わることをラウラ様は苦手としているのだ。そんなラウラ様にどうやって愛のあるキスをしろと。
「正直誤算だったわ。私の想定する愛と、あの子の想定する愛が違いすぎることは。生きて来た世界が違うとすら感じるわ」
「ど、どうすれば……」
「さあ、それは貴女が考えることね。私は別に『真実の魔法』が解けなくてもいいと思っているし、むしろ解けない方がいいとも思っているくらいだから」
「そんな投げやりなぁ!」
「私は兄と違って適当なのが良いところなのよ……おっと、もうこんな時間。それじゃあ、頑張ってね」
「えっ、あっ、ちょっと!」
懐中時計を片手にヒラヒラと手を振りながら、タバサ様は何処かへと消えていきます。
神出鬼没は魔法使いの理想の姿なのかもしれませんが、そ、そんな急にいなくなられても!
止める暇もなく去ってしまったタバサ様。誰もいなくなった校庭で、私は一人呆然としてしまいます。
……ど、どうしよう。




