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その169 謎の人は私

「ちなみに、この後何か用事はあるでしょうか?」

「よ、予定ですか? あると言えばありますが割と何時でも出来ることなのでずらせる感じです」


 暇な日の私は大抵ジェーンかローザと一緒にいることが多いのだけど、本日は2人とも新学期に向けてやや忙しいようで、私はぼっちだった。

 しかしぼっち生活にも慣れたものなので、今日は一人で生聖地巡礼でもしようかと思っていたのだけれど、まあそれは用事には当てはまらない。

 もう何百回もやっているからね。


「では今日は一日そこにいてください」

「は、はい? そこにいて……何をするんですか?」

「何もしなくても大丈夫ですよ」

「完全なる置物ですか!?」


 これまで割と置物の様な生活を送って来た私だけれど、本当に何もしなくていいと言われたのは初めてだった。

 ちなみに妄想過多な人間なのでジッとしている分には平気である。

 人を待つのも得意です。


「そこにいるだけで癒しの楽しさを無限に放出するので便利なんです」

「私を何だと思っているのですか!?」

「よいBGMにもなりますしね」

「『真実の魔法』をそんな風にとらえる人は初めて見ましたよ!」


 あまり黙っていられないので仕事場にいるには不向きな女なのだけど、そこがむしろヘンリーとしては嬉しい要素らしい。

 そんなラジオ付き加湿器みたいな謎の家電パワーが私にあったなんて……!

 絶対ないと思うけどね! そんな家電!


「それに結局のところ、人間は長くそばにいる人に好感を持ちやすいようですよ」

「あはは、今以上に私がヘンリーのことを好きになったら大変なことになっちゃいますよ」

「前途は多難ですね……」

「はい?」


 良く分からなかったけれど、結局その日は一日ヘンリーが作業している姿を眺め続けることになった。

 推しの顔を合法的に眺めることが出来るわけで、超役得な状況である!

 揺れるカーテンを背景に、書類の山に集中する彼の姿を眺めていると時がのんびりと流れているような気がした。

 なんだか現実味のない光景を前に、夢を見ている気持ちにさせられる。

 

 そして気が付くと──ヘンリーは眠りについていた。

 腕を枕にスヤスヤ眠ってしまったのである。

 うわー激レアな光景を見せて頂きありがとうございます!!!!!!

 じゃなくて!


 ど、どうしよう!? 起こした方がいいのかな?

 でも、滅茶苦茶疲れていただろうし、寝かせてあげた方が彼の為かも……。


「ええ、寝かせてあげた方がいいと思うわ」

「やっぱりそうですよねー……はい!?」


 突然背後から聞こえて来た声に驚いて振り向くと、不思議すぎることにそこには……私がいた。

 小柄な体格、黒くもじゃっとした髪、やや悪い目つき、紛れもなく私だ。

 えっ、ど、どどど、ドッペルゲンガーさんですか!?


「死ぬんですか私!?」

「どうして死ぬのよ。死ぬ要素ないでしょ」

「じ、自分の姿を見ると死ぬと聞くので」

「そんな伝承があるの? 面白いわね」


 私の姿をした謎の誰かは当たり前のように私の隣に腰かけると、やれやれと言ったふうに肩を回す。

 誰!? 誰なの!? 怖いよー!


「別人だから安心して欲しいわ。よく見たらちょこちょこ違うでしょ?」

「言われてみればおっぱいが大きめな気がします」

「そこは見なくていいのよ」

「あいたっ」


 謎の人は胸をガン見する私にデコピンをすると、ささっと手で胸を隠す。

 あれ、なんか可愛い人かも。

 自分のセクハラでそんなこと思うのは最低だけどさ!


「今日はアドヴァイスをしに来たの」

「来たのですか」


 謎の人は私に助言しに来てくれたらしい。

 いや、謎の人に助言されても全ては謎のままなのですが……。


「まず、クロウム・メーリアンが世界を滅ぼす可能性はなくなったわ」

「そ、そうなんですか!?」

「ええ、私と貴女がいるうちは大丈夫ね」

「なるほど、私と貴女がいるうちは……いや、だから誰なんですか!?」


 困惑と疑問の表情を浮かべる私に、謎の人は呆れたように溜息をつく。


「本当に察しが悪いのね。そこの男の子も大変だわ」

「えっ、この状況で責められるべきは私なのですか!?」

「それで次の滅びの遠因となるのはドラゴンだと思うから、湖の乙女に伝えておいて」

「ど、ドラ!?」

「銅鑼じゃないわよ」

「そ、そうじゃなくてですね!!!!!」


 とんでもなくヤバイことを言いながら謎の人は立ち上がると……私の視界が霧に包まれていく。

 こ、この感覚、まるで夢から目覚めるような感じだ……。


「あの、ですから、お名前は……!」

「タバサよ、それじゃあまたね」


 何処かで聞いたことのある名前ではっとすると、もうそこに彼女はいなかった。

 というか、本当に私は目を覚ましたところだった。

 ガバっと顔を上げた先ではヘンリーが何事もなかったかのように作業をしている。


「あれ!? ヘンリー寝ていませんでしたか!?」

「いえ、寝ていませんよ」

「えええええええええええ!?」


 あそこからもう夢だったってこと!?

 あれ、でも、ヘンリーのほっぺたを良く見てみると……。


「うん? いや、でも、ほっぺに袖のボタンの跡があるような」

「寝ていませんよ」

「あの、でも」

「寝ていませんよ」

「あっはい……!」


 明らかな証拠があるものの、寝ていないらしかった。

 こうしてなんだかとんでもない謎を残したままに冬休みが終わり、新学期が始まる。

 新学期に待ち受けているもの、それはドラゴンらしい……そんな馬鹿な!?


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