その168 愛は単純明快複雑怪奇な代物
「そしてお金の問題ですか……これに関してはお仲間のみんなで協力すれば何とでもなるとは思うのですが、働きたいと」
「どうにも友達からお金を借りることに拒否感がありまして……」
「まあ、人生経験という意味でも社会の荒波に揉まれるのは悪いことではありませんが、うーん」
顎に手をやり、首を傾げて、ヘンリーは考え込む。
そうやって真剣に思考している姿はいつもの彼で、私は少し安心した。
「新学期も始まるので近場がいいですよね。その上である程度高給で程よく劇的な環境変化も必要と……」
「すいません条件が多くて!」
「いえ、これくらいで条件が多いなんて思いませんよ。少ないくらいです」
絶対に少なくはないと思うのだけど、ヘンリーはほんのり微笑んでいて、何やら楽しそうだ。
もしかするとヘンリーは思索にふけっている時が一番癒されているのかもしれない。
だとすれば、難儀な性格だった。
「とは言え、今すぐに紹介というわけにもいきませんね。確約が出来ませんし、大変困ったことにほんの少し忙しいもので」
「ほんのでも少しでもないとは思いますが! いえ、あの、なるべく自分でも探してみます……!」
「そうですか? 遠慮しなくてもよいのですが」
「ヘンリーの多忙さと顔色を見たら遠慮もしますよ!」
「いい息抜きになるのですがねぇ」
「息抜きの仕方が特殊すぎます!」
マルチタスクの人間は一つのことに集中するより色んなことを同時進行した方が効率的に出来ると聞くけれど、ヘンリーもそういう人なのだろうか?
だとすればやはり彼は天才だと言わざるを得ない。
さすが推し。
そして息抜きとまで言われるとここで遠慮する方が悪い気もしてくるのだけど、しかしながら私自身としても自分でお仕事先を探したい気持ちはあるので、ここは同時進行とさせて頂こう。
尤も私が見つけ出したお仕事なんて、かなり変なものになりそうな気もするけれど。
そもそも、働けそうな場所が工場でペットボトルを直す奴……みたいなのしかないからね!
良さげな仕事見つかるかなぁ……。
「最後に『真実の魔法』の解除方法をクロウムさんが知っているという話ですが」
「はい、私には難しいらしいのですが……」
「その方法の察しはつきました」
「すごくないですか!?」
話を聞いただけでどうしてそこまで分かってしまうのか。
与えられた情報って『私には難しいけれど出来る人は今すぐにでも出来る』くらいだよ!?
ちなみに私はさっぱり分かりません。
「ただ、これを貴女に伝えるのは僕の口からはとても出来ません」
「えっ、どうしてですか?」
ヘンリーは何故か顔を逸らす。
そ、そんなに変な方法なの?
「その前に一つ聞いておきたいのですが、ラウラ、貴女に好きな人はいますか?」
「急になんの質問ですか!?」
不躾に修学旅行の夜みたいなことを言われてしまった。
しかし、そのヘンリーのお顔は真剣そのものなので冗談とは思えない。
そんな真面目な美顔を浴びていると、気もそぞろになってしまうのだけど、私も真面目にやらないと……!
「割と重要なことですので、答えて頂けると幸いです」
「ええっと、好きな人だらけですよ! むしろ嫌いな人がいませんねぇ……」
なにせ世界そのものが大好きなので、好きじゃない人がいない。
この世の全てが優しく美しく美麗で、そして顔が良いのだもの!
世界箱推し! いや、宇宙箱推しなんです……!
「それは好きな人とはあまり言いません。ラブな方ですよ」
「ルゥアブゥですか!? んー、いや、多分私がみんなに向ける感情はラブな方ですよ」
友達として好きとかそういうレベルじゃないのである。
自分の気持ちを表現する的確な言葉が逆にまるで思いつかないくらいなのだけど、しかし、ライクではないと言い切ることは出来る。
ただ好きってだけでは中々気は狂わないからね!
よってこの気持ちは間違いなく愛……のはず。
「うーん……明確に定義する方が難しいのかもしれませんが、とにかくラウラの愛は普通のものと異なっているんですよ」
「そうですかね?」
「それが妨げになっているわけですが、まあ、この解除方法は忘れた方が良いでしょう。気にせず生きてください」
「そんなこと言われたら滅茶苦茶気になっちゃいますよー!」
好奇心に殺されるタイプの猫なので気になって仕方がなかった。
これって私が分からないだけで、普通はすぐに察しがつくものなのかなぁ。




